キケロ「老年について」#03 富があれば老後は楽なのか

Q「でも、こんなふうに悪く言う者がいるかもしれません。あなたには莫大な財産と地位があるから年を取ることがそのように快適なのだ、と。」

A「それはある程度までは本当だろうね。でも物事の一面だけしか見ていない。
 確かに、たとえ賢人であっても、貧困に喘いでいれば、年をとることは軽い負担ではない。しかし、本人が愚かであれば、莫大な富をもってしても年をとることは楽にはならないだろう。
 富などとは関係なく、人には自分で自分を守る術がある。それは誠実でまともな生活を続けるということだ。人生を通じて、そういう生活を積み重ねていけば、年をとってから大きな収穫が得られるだろう。
 人生の最後の最後で驚くべき恵みがあるというのは私の話のいちばん大切な点だが、その上さらに、自分はよく生きてきた、自分には善き行いの幸せな思い出がたくさんある、ということになれば、年をとったときに満ち足りた気持ちになれるだろう。


※1980年代に、さだまさしさんの「関白宣言」というヒット曲がありましたね。歌詞の最後の方に、いまわの際には奥様の手を握って「お前のおかげでいい人生だったと必ず言うから」というフレーズが出てきます。
 子どもの頃にこれを聴いた私は、年老いた未来のことなど全く想像できなかったのですが、それでも「いい人生だったと振り返りながら死んでいけるなんて幸せなことなんだろうな」と思いました。
 でもすぐに「じゃ、そのためにはどうしたらいいの?」という疑問がわいて、途方に暮れるような気持ちになったものでした。
 誠実でまともな生活を続ける...若いときにはこんなこと、思いもつきませんよね。

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