キケロ「老年について」#05 健やかな知性を保て

 年をとるにつれて記憶力が衰えていくという者もいる。もちろん鍛錬を怠るか、もともと記憶力が鈍いのであればそうなるだろうね。
 しかし、年老いたからといって、自分の長年の仇敵に向かって、別人の名前で呼びかけたような者がいると思うかね。また、ずっと蓄財していた者が自分の財産をどこに隠したか忘れてしまった、なんて話を聞いたことがあるかね。
 どれだけ年をとっても、争いのために裁判所に出廷しなければならない日や金の貸し借りをした相手など、自分の関心のあることはしっかり覚えているものだ。
 さらには、高齢の法律家、神官、哲学者たちの、あの博覧強記ぶりはどうだろう!
 人は、学びたいという熱意を失わず、ひたむきに努力を続ける限り、年老いても健やかな知性を保てるものだ。
 これはけっして、公的な仕事をしている者だけのことではない。引退して静かな生活を送っている場合でも同じだ。明晰な頭脳を持ち続け、優れた著作を残した老人たちは大勢いる。
 彼らは皆、命ある限り自分の仕事を熱心に追求した人たちではなかったかね?

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