キケロ「老年について」#04 これまで蓄えた力を活かす

 まず、人が「老い」を恐れる理由の第一は「活動的な生活が送れなくなる」ということだ。年をとって、そう嘆く者がいるが、しかし、どんな活動のことを言っているのだろう。
 まさか若くて丈夫なときにしていた類のことではないだろうねぇ。
 たとえ肉体が衰えても、老人の精神に適した「活動」というものは必ずあるものだ。
 過去の立派な人たちの晩年を思い出してみよう。高齢だった彼らが元老院で行った発言や演説を君たちも知っているだろう? その様子は文学として記録に残っているほどだ。私たちの祖国を守るために知恵を駆使していた彼らは、何もしていなかったのだろうか。
 なるほど、船の操舵手は若い船員と同じように、マストに登ったり、甲板を走り回ったり、船底の水を汲み上げたりはしないだろう。舵を握ったままじっと座っている操舵手は、では船の運航に役立つことは何もしていないのだろうか。そうではなく、彼のやっている仕事は若い船員よりもはるかに重要で価値が高いものだ。
 同じように、優れた人たちは晩年に、体力でも敏捷性でもなく、知恵と人格そして冷静な判断力を発揮させていた。こうした美質は、老年に欠けているどころか、実際には長く生きる中で培われるものだ。
 まさに老年とは、それまでに蓄積した力を最大限発揮する時期のことなのだ。老人は、経験を積んで「老成」し、周囲のみんなに「智恵」を授けるべき者なのだ。

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