キケロ「老年について」#06 先祖から受け継ぎ子孫に伝える

 年を重ねても優れた知性を失わないというのは、とても真似のできない「偉人たち」の話だと思うかね? では、そういう人たちは脇に置いておき、私の隣人であり、友人でもある田舎出身の老農たちの話をしよう。
 彼らは、種まき、収穫、穀物の保管といった仕事の時期にはほぼ畑に出ずっぱりだ。こうした熱心な働きぶりは、なにも農夫に限ったことではないだろう。
 世の中には、同じように仕事に専念する年寄りがたくさんいるとは思うが、しかしそうした人の中で、自分は来年まで生きていないだろうと思ってやっている者がいるだろうか?
 農夫たちの仕事には、彼らがとても自分が生きている間に完成を見届けられないだろうと知りながら行うものも多い。ある喜劇作家が「彼は後に続く世代のために木を植える」と書いたがそのとおりだ。
 もし、老齢の農夫たちに、誰のために木を植えているのかと尋ねたら、きっとこう答えるだろう。
 「永遠なる神々のためです。神々によって、私は先祖からこれらのものを受け継いだだけでなく、子孫たちにも伝えていくようにと定められたのです。」

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