カオマンガイ・タワー
3回目のワクチンを打ってきた。
ワクチン打つ人、打たない人、打てない人、それぞれに理由があると思うので何か言うつもりはありません。本人の自由だと思うし、わたしも打つのかなりためらったし。
回数を重ねるごとに予約サイトはスイスイできるし、痛み止めや経口補水液の準備は万端。
3回とも同じ病院で打ったけど、会場の手続きはどんどんスムーズになっていて、会場に入って5分後には接種が終わっていた。
土曜だからか、警備員のおじちゃんは声を出してひとり熱唱しながら警備にあたっている。ごきげんだ。春だな。1回目の張り詰めた空気はなんだったんだろうと思うくらい、穏やかな接種会場。
こうやって日常が変わっていくんだろうな、って思いながら会場を後にした。
ちょっとずつ重たくなる左肩をかかえて、その足で行きつけのごはん屋さんへ。ワクチン打ったし、今日はサボるぞ。
月替わりメニューは2種類あるけど、タコライスにした。何度食べてもうまいんだなぁこれが。燻製ハバネロをかけるとピリッと味が引き締まってさらにいい。お店の人とゲラゲラ笑いながら食べるから、おなかも心もチャージできる。いつ行っても元気をもらえるお店。
肩がずーんと重くなってきたのを言い訳に、テイクアウトで夜ごはんも買って帰ることに。だって、つくる気力ないかもしれないし。カオマンガイ、好きだし。
お昼ごはんのタコライスを頬張りながら、いまワクチン打ってきたの、夜ごはんにカオマンガイもテイクアウトしたいって話をすると、店長も「食べられるときに食べなよ〜」ってニコニコしながらテイクアウト用をつくりはじめてくれた。
容器に野菜と、鶏の出汁で炊いたお米を盛り付ける。遠目で見ていたけど、この時点ですでに容器から米のタワーがはみ出している。
「え、だっていっぱい食べるでしょ?」ってニコニコしている店長。そして米タワーの上に、これでもかとばかりにたっぷりの鶏肉をのせる。ちなみに、大盛りとは言っていない。
モリモリのうえに、さらに盛ると通常は雪崩が起きる。そんなのどこ吹く風、と涼しい表情で器用にちょんちょんと盛り続ける店長。攻めている。このとき静かに、容器と店長のバトルがはじまっていた。
気づくと本当に蓋が閉まるか、こちらが不安になるくらいの高さになっていた。これはかなり攻めている。もう米タワーは鶏肉の屋根で見えなくなっていた。
いっさい守りに入ることなく「パクチー好きだっけ?」と聞いてくる店長。まだ攻めるつもりらしい。もちろん、大好きと答える。パクチーも好きだけど、店長のファイティングスタイルへの敬意を込めて。
わたしの目はもう、カオマンガイ・タワーに釘付けだった。高さだけでなく横幅もパンパンだ。もう閉まらないだろう、さすがに無理だろうと思ったそのとき。
ニコニコしながら蓋でカオマンガイ・タワーをキュッと押さえ、パチンと閉めてあっさり完封。店長、圧勝。
鮮やかなまでのパッキング。その手際のよさについ目を奪われてしまった。スーパーの詰め放題、得意にちがいない。これで800円とは良心的にもほどがある。
ビニール袋に入れて「お大事にね!」と満面の笑みで送り出してくれた。
ビニール袋の持ち手を持つとごはんが重くて傾いちゃったから、両手のひらの上に容器をのせてテクテク歩いて持ち帰った。なんだか宝物を持っているような気分だ。
帰り道、手のひらがずっとあたたかかった。ぽかぽかの陽気でも、ほかほかの容器でもなくて、きっと店長の気遣いのおかげだ。
ずーんと重い肩の痛みは、そのときだけ忘れていた。
鶏の出汁の旨みをたっぷり吸い込んだお米は、食べても食べてもなかなか減らなくて、結局2回に分けて食べた。「食べられるときに食べなよ〜」の意味がわかった気がする。3歳しか違わない店長の優しさを噛みしめる。やっぱりこのお店のごはんは別格だ。
来週、美味しかったよって伝えにいかなきゃ。
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