見出し画像

千年オリーブテラス・インタビュー VUILD株式会社 代表取締役CEO秋吉浩気さん(その2)

2023年秋、オリーブで心とからだをととのえるウェルネスガーデン「千年オリーブテラス for your wellness」が、小豆島・オリーブの森にグランドオープンします。ひと足早く7月にオープンしたコミュニケーションラウンジ「The GATE LOUNGE」は、それぞれ形の違う木のパーツを組み合わせてできた建物。スタッフが自分たちで島のヒノキを調達して、乾燥や加工などを担当しました。

施主自らが材料を調達し、製材や加工した木材から誕生したThe GATE LOUNGEは、オリーブ兄弟の「森を切り開く開発ではなく、島の恵みを使い循環させる形で作りたい」という想いと、「建築の民主化」を掲げるVUILD株式会社 代表取締役CEO 秋吉浩気さんとの出会いから生まれました。
2023年3月、編集部はThe GATE LOUNGE建設中の秋吉浩気さんにお話を伺いました。前回に引き続き、秋吉浩気さんのインタビューをお届けします。


VUILD株式会社 代表取締役CEO
秋吉浩気さんインタビュー②

私たちが素材やデザインで重要にしているのは、次世代にきちんと残るものを作りたいということ。地域にあるものを尊重して使用し、長期的な時間軸として、次世代に残るものにしたい。

自分で家は建てられないと思いがちですが、千年オリーブテラスの皆さんは意外に思っていないかもしれない。やれるならやってみようと、とりあえず一度やってみる。反対に少し建築をやったことのある人なら、怖くてやれないかもしれないですね。実際に皆さんが皮むきしているのを見たり、きれいに並んで乾燥されている木を見たり、ShopBot(※1)で加工しているところも見ましたが、実は僕自身驚いています。
お施主さんたち自身で木を運んで、皮を向いて、乾燥させて、自分で加工するなんて聞いたことがない。そもそもお施主さんが自分たちでプレカットという部材の加工ができることがイノベーション。私たちが監修することで品質の担保はしていますが、全部のプロセスに建主が関わっていることがまさに建築の民主化。どっちかというとお金ではなく、プロセスという体験がストーリーとしてすごいと思います。きっといまも自分たちで作っていると言ってもらっていると思うけれど、完成した時にはもっと胸をはって言えると思うんですよね。それがストーリーとしてすごい。
オリーブの森には、現在という時間軸での積み重ねの話もたくさんありますが、千年のオリーヴ大樹があります。私たちが素材やデザインで重要にしているのが1000年まではいかないかもしれないけれど、少なくとも次の世代の人たちにはきちんと残るものを作りたいということ。沿岸部に建つThe GATE LOUNGEの屋根には、地中海で使われているナチュラルジンクという亜鉛の板金を使う予定です。地中海の海沿いでも100年持つと言われている材料が、地中海から来たオリーブというストーリーにも響響きあう。丸太もできる限り木で組んで、基礎には小豆島の石を用います。その地域にあるものを尊重して使用し、長期的な時間軸として、次世代に残せるものにしたいと考えています。
(※1)ShopBot コンピュータによる自動制御がついた木材加工専用のCNCルーター。

その場所の外環境、自然環境に合わせて設計。建築は地面から生えてきているようなものがふさわしいと思っている。

The GATE LOUNGEの形態は、風を取り組む形にしています。ゲートラウンジとして一番ふさわしいあり方とは何なのかを常に考えながら提案をさせていただいていますが、オリーヴの森は海の前に飛び出ている自然環境豊かな土地なので、The GATE LOUNGEの外装を段々の形状にして自然な光と風が入ってくるように設計しています。夏場は最低限取り込んだ風で涼しくして、ピーク時にはエアコンで補助する。極力エネルギーを使わない形で設計すると同時に、その場所にある建物として外環境、自然環境に合わせて設計しています。建築は地面から生えてきているようなものがふさわしいと思っているので、この場所だからこうなったという形を目指しています。
今後、オリーヴの森には宿泊棟やサウナなどいろいろな施設ができる訳ですが、The GATE LOUNGEはすべての人が集う場所。訪れる人、宿泊する人など、長期的な顧客とのエンゲージメントを増やすなら、The GATE LOUNGEは一日すべてをオリーブと過ごす、人々をオリーブで包み込む重要な拠点。オリーヴの森の世界観に没頭できて小豆島で過ごす時間ができる。そんな場所になっていると思います。
スタッフの皆さんが加工しているThe GATE LOUNGEの構造体となる丸太ですが、その端材を使いつくしたいと思っています。丸太の二方向を落とす際にできる蒲鉾状の端材をゲートラウンジの床に使用する。宿泊棟の外観にも使えないかとも考えています。丸太を全部使い切るといわゆる歩留まりが100%に近づく。これは結構革命的なことです。普通は製材すればするほど歩留まりが悪くなり、使えないものが出てきます。伐採したものをすべて使いきる。この社会的インパクトは強いと思います。今後予定されているサウナなども歩留まり100%で作ることができたらと思っています。

それを使う人たち、オペレーションする人たちと共に作るのは、本当の意味での建築の民主化。建築という価値観、異なる人々が同時に集う公共性の高い建築を建築物というとすると、「建築物の民主化」は、私たちとしても初めてのプロジェクト。

VUILD株式会社は、建築の民主化を掲げ、どんな人でも建築に関われる仕組みを理想としている会社です。具体的にはデジタルの加工機を販売したり、それを扱いやすくするソフトを開発したり、デザインのテンプレートを流通させたりするなど、様々なことを行っています。今回の千年オリーブテラスでは、対話を通じた共創型の設計プロセスを目指し、双方が納得のいく方法ですべてを作っています。設計のプロセスもある程度民主的に進めています。実際に建てる方法もスタッフの皆さんが持っている能力、可能性を最大限に生かしながら作っていくことを考えています。
これまで家具や小屋でいわゆる民主化ということをやってきましたが、100平米の建築物、今回のような公共性の高いもの、みんなが集う場所を作るのは、私たちとしても初めてのことです。実際にそれを使う人たち、オペレーションする人たちと共に作るのは、本当の意味での建築の民主化。建築という異なる価値観、異なる人々が同時に集う公共性の高い建物を建築物というとすると、建築物の民主化は私たちとしても初めてのプロジェクトです。

デジタルファブリケーション技術を使い、外から来た人間とそこに暮らす人々が協働して新しい価値観を作り出す。それが「千年オリーブテラス」。

デジタルファブリケーション技術を使えば、建物の一部が壊れたり修理が必要になったりした場合、同じデータを元に新しい材料を切り出して作ることができます。構造体に島の木を使うから島の木を切り、同じデータで木を切り出せばそのパーツに組み換えることができる。次の時代においても同じようにできる仕組みを組みこもうとしています。そうやって未来にバトンをバトンを渡していきたい。
外から来た人間が置いていくというプロセスだと持続していくというプロセスが欠如し、何かがだめになったら壊すとならざるを得ない。千年オリーブテラスは、世代を超えて受け継がれるものとなる場所です。スタッフの皆さんが建築物を建てるプロセスから参加しているからこそ、壊れたら再び木を伐採し、皮を剥ぎ、乾燥させ、加工し自分たちの手で修理用の建材を作ることができる。ハードルは高いけれど、私たちはそういう時間軸を考えて、そのためのプロセスをどう作るかをデザインしたいと考えています。

【VUILD株式会社】
3D木材加工機「ShopBot」の輸入代理店・サポートを行う「ShopBot支援事業」、オーダーメイド家具をオンデマンドで地域生産するためのWEBアプリケーション「EMARF」を運営する「EMARF事業」、建築設計を行う「VUILD ARCHITECTS事業」、デジタル家づくりアプリケーションサービス「NESTING事業」の4つの事業を通して、専門性がなくても「ものづくり」に取り組むことができ、誰もが大工や建築家になれる環境づくりに努めている。HP:https://vuild.co.jp/