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ダウ90000を見た

ダウ90000の本公演を見た。
ダウ90000と入力するとき、私は数字が弱すぎるので「じゅう、ひゃく、せん、まん」とカウントしながら0を入力していた。何度か打ったら予測で出るからよかった。

コントを何度か見たことがあったけど、本公演は初めてだ。
どんな感じかなーと思ったら、めちゃくちゃよく出来た演劇作品でびっくりしてしまった。びっくりして、渋谷の街からまっすぐ帰れなくて、新宿まで歩いた。なんかこう、カッカして発散しなきゃ!と思うくらい楽しかったのだ。

会話のテンポが良かった。コントの時とはまたトーンは違うかもしれないけど、気持ちの良く、砕けた感じも浮いたところがなくて耳に障るような言い回しがなかった。
自然、を打ち出すとなんかが引っかかった時にこんな奴いねえよと恥ずかしくなってしまうけど、これはこちら側はコントフォーマットを想定して見てるからゆえの効果もあるかも知れない。
ただ、あ、コントじゃないとなったのは「ツッコミ役」が固定じゃなかった。
大抵コントだと蓮見さんがばしばしツッコむイメージだけど、今回は出てくる人物がみんな相手を冷静にツッコんだとおもったら、ボケをかましての攻守交代が目まぐるしくあった。みんな、人のことはとても冷静なのだ。自分のことはてきめんにすっとぼけになるのがおもしろかった。

あと情報の提示の仕方がめちゃスムーズだった。開始から登場人物の関係性出てくるまで、ズートピアの冒頭かというぐらい自然に必要情報が流れ出てきた。
この傾向は全編そうで、感想漁ってて初めてこの物語が税率8%の頃だと気がついた。さりげない上に私が数字弱すぎて処理できてなかったね。

私が好きなくだりはカタヤマくんが元カノの現住所を駅遠!といじるけど、今カレが登場時に車持ってることがサラッとセリフに出てきて、観客側的にはカタヤマくんの遠吠えがより情けなくなったところ。
あと今カレ一緒に実家に行ける関係性だってこともめちゃサラサラ〜って出てきて、そこについてはカタヤマくんは騒がないことも、ひえ〜っとなりました。なんかこういうとこ上手で、性格悪〜って嬉しくなった。

1番この話を掻き回すアイテム「コーヒートラベルのDVD」
カタヤマくんのいう面白くないけど好きな映画、ってなんか胸が痛くなるようだった。
モノやコトにびっくりするぐらい人の記憶は結びついてしまう。オイカワくんの彼女みたいに、花の名前を教えて消え去るという上級の呪いを使うまでもなく、とてもくだらないささいな何かにさりげなく記憶は寄り添ってしまって、呆気なく気持ちはそれに引っ張られてしまう。
それを知ってるから、パートナーには過去の恋人に会ってほしくないと思ったりする。そっちで共有している思い出を、こっち側で上書きしてやろうと躍起になったりする。
でも、まあ、それはそれとして持ってていいものなのだ。よく恋人の遍歴を上書き保存と別名保存などと例えて言ったりするけど、結局人は案外みんな別名保存なんだと思う。思い出は、嫌でも残ってしまうし。

見たことのある映画をまた初めてみたいな顔して見るのは、場合によっては結構愛のある行為だね、でもやっぱさみしいね、というのはほんとにそうだ。

「ユウトとは見てないから」
これが全部だな、とおもった。
カタヤマくんの元カノ、散々騒いでたカタヤマくん自身、オイカワくんの彼女がそれぞれ初見のフリをする映画があった。でもそれでいいと思ってやっている。そういうことはとてもよくありふれていて、レンタルショップのよくある風景で愛なんだろう。人は愛ゆえに島忠に壁紙を買いに行くのだ。雨でも。
まあ、みんなわかっているのに、されたら嫌なんだから仕方ないのだけど。

DVDって樹脂が厚いから、傷ついたら研磨すると復活することがある。
ブルーレイはコーティングがめちゃ強いけど、データ読み取りやすくするためにその層は薄いから、傷ついたら一発でデータ層までいっちゃってダメになることがある。
なんか、こうやって並べて書くとそれっぽい。

止まっちゃった「コーヒートラベル」は多分クリーニングして見れるようになったんじゃなかろうか。あのラストシーンだけを語ろうとしてもたぶん8時間場が持つとおもう。みんなああいう時間の過ごし方をしてきたり、したいと思ったりしたはずだ。あれが出来んなら信玄餅でシャツを何枚無駄にしたって構わん。
あの夜のレンタルショップの思い出は多分上書きじゃあないんだと思う。上書きだ〜!と思っていたってやっぱり履歴が残るのだもの。映画館で見ていなければ、レンタルしなかったんだし。

税率が上がってパッケージの売り上げが減り続けている2021ではあのレンタルショップは無くなってしまっているかもしれないけど、ダウにとってあの物語が「失われたあの頃の」ではなくて、「今ここの」物語だからこんなに楽しいんだろうなと思う。
中年の霞んだ眼差しを経ていないクッキリとした輪郭のあるお話で素敵だった。演劇だった。

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