【翻訳/解説】 「もうwalletと呼ぶのはやめませんか?」 "stop calling it a wallet"
この記事は、2022年5月24日に公開された@gaby_goldbergの「stop calling it a wallet」の日本語翻訳版とその解説や見出しを適宜加えて読みやすくしたものです。翻訳許可を快諾してくれたGabyには感謝しています。素敵な記事を書いてくれてありがとう!!Special thanks for posting a great article!!!! :)
この記事「Stop calling it a wallet」が公開された当時は、web3界隈で大きな反響を及ぼしました。ウォレットの未来を考える上で重要な指摘となるこの記事を簡単に振り返っておきましょう!
👇英語の勉強もかねて原文を読みたい方はこちらから!!
(翻訳は、正確性よりも自然でわかりやすい日本語になることを心がけています)
「stop calling it a wallet」意訳
この記事の要点
言語が思考を形成する
言語相対性理論(※1 翻訳者注)によれば、人間が何か物事を考える際には、普段使用している言葉によって直接影響を受けているといいます。
言語が思考を形成する。つまり、日々使用している言葉によって私たちの物事の捉え方が変化するのです。
この言語相対性理論を説明するのに役立つ例の1つが、「Arrival」(※2 邦訳タイトル「メッセージ」)という映画です。
この映画では、言語学者のルイーズ・バンクスが、地球に降り立った異星人とコミュニケーションを取るために軍と協力する任務を負っています。エイリアンのうちの 2 人との定期的な「ミーティング」を通じて、彼女はエイリアンの書き言葉の記録をまとめ始めるのです。ルイーズは、彼らの言語が堂々巡りで、各文には明確に定義された始まりや終わりが欠けていることを知ります。
おもしろいのは、彼らはそれと同様の方法で時間も認識しているということです。彼らにとって、言語と同様に時間も円形だったのです。
(※3 過去/現在/未来という直線的な時間概念を持つ地球人とは異なり、その宇宙人はどれもが循環し再帰する時間概念を持っていたということ。言語構造が、思考(時間概念)に影響を与える1例として取り上げられています。)
ルイーズは、宇宙人の言語を解読することに取り組み、次第に過去や未来のビジョンを持ち始めました。彼女自身も、時間を循環的な概念として理解し始めたのです。地球人とは異なる言語で考えることによって、ルイーズの物事の捉え方が変わってしまったのです。
「Arrival」は単なる映画作品であるにも関わらず、言語相対性理論は、この理論が生まれた20世紀前半からずっと論争を巻き起こしてきました。しかし、特にここ数ヶ月間、言語相対性理論がなぜか頭から離れなかったのです。
「wallet」以外に、もっと適切なネーミングはなかったのか?
私は、web3 に存在する新しいテクノロジーや習慣に対して新しい「言葉」が出現するのを見てきましたが、それを表すのに正しい言葉を選んできたかどうかについては正直よくわかっていません。そこで、今回この記事では「wallet」という言葉を取り上げてみたいと思います
個人的な意見ですが、「ウォレット=財布」という単語はいくつかの点で不十分だと言えます。従来の意味では、財布は静的な物体であり、時間が経つにつれて変化したり、環境に適応したりすることはありませんし、必ずしも価値を蓄積していくこともありません。財布は純粋に資産を保管しておく容器と考えられているので、その中に入っている(と思われている)NFTも同様に資産のように感じられます。
そして、もっと細かいことを言うと、「ウォレット」という言葉のせいで、人々は鍵ではなく本当に実際の資産がウォレット内に入っていると勘違いしてしまうことがしばしばあります。
(※4 実際のcrypto walletは実際の資金を保存しているわけではなく、ブロックチェーン上に記載された数字へのアクセスキーを保有しているだけです)
ここ数年のウォレットの動向
また、過去数年間でウォレットの目的がどのように変化してきたかを考えることも重要です。最近まで、ほぼすべてのウォレットは、トランザクションという1点だけを重視して構築および設計されていました。多くのウォレットは 3 年以上前のもので、トークンの購入、取引、所有を目的としてのみ作られています。
しかしそれ以来、ウォレットの目的は進化してきました。BTCやイーサリアムなどのトークンを保管しておくだけでなく、自分の持っているNFTを眺める(例えばGenesis, Rainbow Coinbase Walletなど)ことができたり、他にも様々な体験ができるウォレット(例えば動画に特化した「Glass」、デジタルファッショに特化した「DRAUP」(※5 翻訳元記事の参照先リンクが切れていたため、Twitterアカウントに変更しています)、自分のAIを保有できる「Altered State Machine」 など)の需要が高まってきています。
簡単に言うと、ウォレットは人々が時間を費やしたい場所になりつつあり、今日ではかつてないほど色々な使われ方をしています。
しかし、トークンの購入、取引、保管をするためだけに作られた既存のウォレットでは、現在の人々のウォレットに対する要求を満足させるには不十分でしょう。
(※6 単にNFTを保管するだけのウォレットに対する皮肉が引用されています)
クリプトウォレットが、今後どのように発展し続けるかを考えるときには、一般ユーザーに広く使われたウォレットの要因を探ると良いでしょう。具体的な例を挙げると、MetaMask の MAU(※7 Montly Active User。月にアクティブなユーザー数)は 2020 年 7 月に 545,000人 でした。しかし、イールドファーミング(※ )がきっかけに盛り上がった「DeFi サマー」への関心の高まりによって、MetaMaskのMAUは 2021 年 8 月までに 1,000 万を超えました。その当時、MetaMask はどの競合他社よりもはるかにアクセスしやすかった (広くサポートされていた) ため、ユーザーが DeFi の収益を活用するために MetaMask を使用するのは当然の選択だったのです。
このMetaMaskの例と今日(※8 2022年5月執筆時点)の web3 エコシステムの間には類似点があることがわかります。新しいNFTプロジェクトや、イールドファーミングの機会、ソーシャル Web3プラットフォームなどはかつてに類を見ないほどどんどん生まれており、成長の一途をたどっています。
最後に
既存のウォレットは最初のうちはこれらの新たな需要を満たしますが、それだけでは不十分です。アプリケーション、ユースケース、およびユーザーの行動などがますます多様になるにつれ、ユーザー(および開発者)はオンチェーンの魅力を活用し、デジタルアイデンティティを色々なdappsやチェーンをまたいでよりなめらかに移転させることのできる、様々な機能が利用可能な、あるいはある機能に特化したウォレットを必要とするようになります。
もしこの仮説が本当なら、さまざまなジャンルやテーマに対応したウォレットが登場し、それぞれに独自の用語があり、新しいユーザーがつくようになると予想しています(※9 実際に2022年以降、GameFiやNFT特化のウォレットや、LINE特化のウォレットなどが生まれてきています)。
おそらくですが、デジタルファッションはワードローブに保管され、ディスコグラフィーを通じて音楽NFTを披露するでしょう。友人であるザックはかつて私に、ウォレットをWeb3版の電子メールの受信箱ようなものとして捉えるようにおすすめしてくれました。
優れたUXを提供するには、さまざまなユーザーの行動(取引、アート、ゲーム、ファッション、音楽など)に合わせて特化したウォレットや、少なくともそれに応じてNFTを分類するためのウォレット内検索ツールが必要でしょう。
私の才能豊かな友人で投資家仲間のジェイ・ドレインは、ウォレットについて次のようにうまく説明しています。「現時点では、仮想通貨のウォレットは様々なトークンをリストにしている入れ物にすぎません。しかし将来的には、より良く発展させていくにつれて、デジタルアイデンティティをよりはっきりと表現できるようになると思います。」
こちらから全文をチェックすることをお勧めします。
日常を過ごしていくための手段として言語を使用することは、言語によって私たちの認識が形作られていることを受け入れることです。結局のところ、このこと(つまり言葉のせいで自分たちが気づいていない盲点を探ること)が、名前に込められた本当の役割なのかもしれませんね。
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この記事を公開するにあたって、様々な助言をくれた D'Arcy Coolican、Zach Davidson、Jarrod Dicker、Brandon Jacoby、Dani Loftus、Sean Thielen-Esparza、Zach Terrell、その他多くの方々に感謝します。もしこの記事に共感、(あるいは反対なら!)、ぜひTwitter DMに連絡ください。たくさんの意見をお待ちしております。
これで原文の翻訳は終わりです。
僕のまとめと感想
この記事では、言語は思考に影響を与えるのだから、「wallet」という呼び名はもっと再考した方が良いのでは?という指摘がなされていました。
「wallet」という呼び方を変えることで、「wallet」に対する捉え方、考え方に変革をもたらそうとする筆者のアプローチは非常に示唆に富んでいると思います。
他にも「wallet」という呼び方に関しての再考を促す動きは出始めています。
phiのconsomeさんも、ウォレットの呼び方、変えれるんじゃねぇの!?とTwitterで指摘されていました。
「wallet=財布」というと、お金やカード、レシートを持ち運ぶ入れ物だけを想像してしまいます。現状、クリプトのwalletということで、単にassetを保有するという役割が強調されています。
しかし実際はDeFiやゲームなど、様々なdappsに接続したり、好きなNFTを眺めたりと、単にassetを保有するだけの役割にとどまっていないですよね。
自分の持っているNFTや過去に刻んだトランザクションは、もっと自分のオンラインアイデンティティを表明しているでしょう。そこには、単にデジタルに還元されない「愛着」のようなものが存在しているはずです。
あるいは僕たちが日常で使用しているお財布は、皮できていて使えば使うほど馴染んで愛着が湧いたり、好きなブランドで自分の趣味嗜好・アイデンティティを表現していたりと、「単純に実用性ばかりを追い求めているだけではない」ことがわかるでしょう。
今後はAAの普及により「ソーシャルリカバリー機能」「ガス代第三者負担」など、不便な機能を解消していく方向に進みます。また、現状でもzerionやfamilyのようにUI/UXが優れており、デザイン的に使いやすいcrypto walletも今後さらにでてくるでしょう。
そこで長期的に鍵になるのが、あえて金銭的インセンティブに降らず、「愛着」にフォーカスすることだと考えています。
次回の記事では、「stop calling it a wallet」を踏まえ、過去/現在/未来のウォレットを比較考察し、僕ならなんという言葉で「wallet」を形容するかというところまで踏み込んで行けたらなと思います。
それではまた次回!!
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