吾輩は犬である🐕

吾輩は犬である。
名前はまだない。どこで生れたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗い狭い場所で、ぐうぐう眠っていた記憶しかない。そのうちに、人間というものに連れられて、このアパートにやってきた。ここは都会の片隅にある、古びた建物で、隣近所はみな同じようなアパートだ。吾輩はここで、飼い主という女の人と暮らしている。飼い主は「カメラ」というもので吾輩を見れるらしい。そんな事はつゆ知らずに飼い主を待っている。待っているだけでは楽しくないので試しにそこら辺のものを齧ってみた。変な味がした。

飼い主は、仕事というものに毎朝出かけて、夕方に帰ってくる。その間、吾輩はひとりでアパートの中で過ごす。窓から外を見ると、車や人や猫が行き交っているが、吾輩には関係ない。吾輩は犬であるから、外に出ることは許されない。飼い主は、散歩というものをたまにしてくれるが、それも短いし、楽しくない。首輪とリードというものに繋がれて、飼い主の後について歩くだけだ。吾輩は自由に走り回りたいのに、できない。吾輩は犬であるから、自分の意志は尊重されない。

飼い主は、愛情というものを持っているらしい。帰ってきたときや、寝る前に、吾輩の頭や背中をなでたり、抱き上げたりする。それは気持ちがいいが、それだけではない。吾輩は、飼い主の言葉を理解できないが、感じることはできる。飼い主は、寂しいとか、疲れたとか、悲しいとか、そういうものを持っている。そして、吾輩にそれを分け与えようとする。吾輩は犬であるから、飼い主の気持ちを癒すことはできない。吾輩は、ただ飼い主のそばにいるだけだ。

吾輩は犬である。名前はまだない。吾輩は、このアパートで、飼い主と暮らしている。吾輩は、飼い主に愛されているのだろうか。吾輩は、飼い主を愛しているのだろうか。吾輩は、幸せなのだろうか。吾輩は、犬であるから、答えはわからない。

この物語はフィクションです♪


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