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わかりやすい愛

「いつから好きだったの?」


そう聞かれてもきっと、わたしは答えられない。

向こうに聞いたこともないけど、わたしと同じで答えられないんじゃないかな。どうかな。


答えられないけど、

「特別を作らないこの人の特別になるにはどうしたらいいんだろう」

と思った瞬間があったことは覚えている。



最初はなんか、“名前が難しい人” というイメージしかなかった。

ファーストコンタクトは高校二年の秋頃だったろうか。

まだわたしは後輩が苦手だったし、

一時的に文化に入るという彼に興味もなかった。

あの頃の彼の顔も思い出せないし、

生徒会選挙で彼の名前に信任の○を書いた記憶すらない。

それくらいふたりは違う場所にいた。


三年になってKSC連合が発足して、

まずビールケース掃除で一緒になったんだったっけな。

そのときだって「黙々と作業する子だな」以外の印象を抱いていない。

あ、でもしりとりしたっけ。

この子まじで喋らんなぁとかは思ってたかも。


それから日が経って仕事以外で何気ない質問を振ったとき、

「はい…」とか、「あ〜…」っていう、

口下手全開の返答があまりにも新鮮で、それを面白がって話しかけるようになったのは覚えている。

ほんとうに最初は面白がっているだけだったのに、

いつの間にか好きになって、付き合っていた。

人生何が起こるか分からんね。


気付いたら付き合って3ヶ月経っていた。

ふたりとも○ヶ月記念なるものに興味ないので、特になにもしていない。

というか正直忘れていた。

月日が流れるのは早いなあ!なんて、今更感慨を深めるなどをして周りからの人格否定を回避しようかな。

ここらへんを祝うかどうかはカップルによって様々ですから。


3ヶ月、

思い返してみると色々あったな。

いつまでも盲目なままではいられない。

恋は愛に変わる。

ふたりの間にもあったし、わたしひとりの中にもあったし、向こうの中にもあったんだろうな。


言葉にせずとも伝わることは確かにあって。

それでもわたしは言葉を信じていて、言葉にすることを諦めたくないから

「どうしたら相手を傷つけないように、言葉の少ない彼に、本心を伝えることができるだろうか」

と、たくさんたくさん考えた。


一度口から溢れた言葉は二度と戻らないから。

戻らなかったときの痛みを知っているから、

より慎重に時間をかけて、伝わるように努力した。

これはほんとうにわたしを成長させてくれたと思っている。

大事にしたい人に対してそうあれる自分が誇らしくもあった。

慢心ではないと信じてもいいかな。


ところで、彼はわたしに一度も嫌いだと言ったことがない。

残念ながらわたしは何度か言ってしまったことがある。

もちろん大半は本気ではないけれど。


彼はそもそも人や物に対して嫌いという感情を抱きにくい人みたいだ。

好きなもの、嫌いなもの、そういった区別をわざわざつける必要がないと思っているように見える。

そう見えるだけで、ほんとうのところはどうなのか分からないけどね。

思っているけれど言わないだけかもしれないし。


よく「無駄なことはしたくない」と生活の様々なものを切り捨てる人がいるが、

彼は断じてそういった人ではない。

わたしは彼のそういうところを好ましいと感じる。


彼の好ましいところは他にもある。

毎回きちんと「いただきます」って手を合わせるところ、

ごはんを残さないところ、

ハンカチを常に持ち歩いているところ、

持ち物を大切にするところ、

脊髄反射の如く率先して物事に取り組むところ、

誰かを蔑む言葉を使わないところ、

置いてきぼりにしないところ、、、

、、


もちろん好きなところばかりじゃない。

嫌だなと思うところもある。

特にわたしは万物に対して、

「〇〇のここ、好きだけど嫌いだな」

なんてことがよくある。

アンビバレント。

だから気にしないで。

人間だもの。

向こうだってきっとある。

お互い様なのだ。

自分らしくいることをベースに、譲れない部分以外を擦り合わせる。

わたしたちは決して完全には分かり合えない。

違う人間だから。

けれど互いに歩み寄り、寄り添うことはできる。

それを続けていく。


それだけ。


この前、ある人が「付き合っている人のダサい部分を見ると冷めてしまう」というようなことを言っていた。

好きな人の残念な部分にがっかりしてしまう、

世間一般的にも多くある意見だと思う。

それを一緒に聞いていた彼がどう思ったかは知らない。

けれど少なくともわたしは好きな人のダサい部分を見たとして、

全然好きでいるだろうなと思った。

差別的な発言や、人として許せない行為をしていた場合は別だけど。

結局好きな人ならなんでもありなんですよね。


自分みたいな人を好きになっても、自分みたいな人がもう一人できるだけで、わたしにとってそんなのはつまらない。

わたしはきみが自分と違う人間だから好きになったんだよ。

掴みづらいきみのこと、よく分からないから、知りたいと思って、いつも遠くを見ている、きみの視線の先にいたくて、なにも言わないきみが、わたしについて語るさまを見てみたくて、好きになったんだ。



考えてもみてくださいよ!

好きな人のダサい部分とか、愛おしい以外の何者でもないと思いませんか?

なんて人間らしいひとなんだろう、と逆に好感度が上がるし、親しみを覚えますよね。

人は人を買い被りすぎだと思う。

偶像崇拝じゃないんだから。

盟神探湯でおまえを断罪するぞ。



きみのいろんな一面を見てみたい。



あなたはあなたのままで、ダサい部分も含めて、ずっとわたしに愛されていればいいと思う。







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