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シナモントースト

カフェオレを飲んでいたら急にシナモントーストが食べたくなったので、作った。


幼い頃はシナモンのことが苦手だった。

祖父母の家の台所ではいつもシナモンが香っていた。

あの独特な匂いがどうにも好きになれなくて、ずっと鼻をつまんでいた。

それからも苦手意識が消えることはなかった。


高校に上がって、喫茶店でバイトを始めた。

メニューにはシナモントーストがあった。

人気のある定番メニューで、オーダーが入れば自分が作ることもあった。

仕事なので「ああシナモンの匂いがするなあ」と思いながら、言われるがままに作っていた。


夕方ラストの時間帯、店じまいをしたあとの賄いとして、ホットケーキや解凍して日が経ったケーキを頂くことがあった。

そこで初めてシナモントーストを食べた。

実はシナモンが苦手なんです、なんてオーナーに断れなかったからだ。


分厚い山型の食パンに切れ込みを入れて、バターを塗って、焼く。食パンの角がきつね色になってきたら取り出して、グラニュー糖とシナモンを振る。端から端までたっぷりと、まんべんなくかけられたらもう一度トースターへ入れる。#16ディッシャーにホイップクリームを絞って、メイプルシロップと一緒にトーストへ添える。


結論から言うと、シナモントーストは美味しかった。

昔あれほど嫌だった独特な匂いも気にならないほどに。

バターの塩味とシナモンの苦味、ザクザクしたグラニュー糖、ホイップクリームの満足感やメイプルシロップのもったりとした甘さのすべてが、バイト後の疲れた身体に沁みた。

すごくいいものを食べさせてもらったと、オーナーへの感謝を胸にいつもより軽くなった自転車のペダルを漕いで帰った。




という風に、はじめてシナモントーストを食べた日のことを思い出した。

思い出したから記憶をもとにシナモントーストを作ってみたけれど、シナモンとグラニュー糖が何:何の比率で混ぜられていたかなんて覚えていなかった。

しかも最初は砂糖とシナモンを混ぜてしまった。

「あのザクザクキラキラ感がないなぁ」なんて、当たり前じゃん。

使っていたのは砂糖じゃなくてグラニュー糖だよ。

気づいたときにはもう遅かったから、やや強引にグラニュー糖も混ぜた。

トーストしたパンにかけてみたけど、なんか違う。

シナモンがプリンのカラメルみたいな色をしていない。

なんかもうこれでいいやと思って、久しぶりに作ったシナモントーストは食感が疎らな、ただただ甘くて、シナモンの風味が薄いトーストになった。


そのうちまたリベンジしようかな。






手からシナモンの香りが消えない。


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