Aマッソ
二年前の夏に下北沢の劇場でフワちゃんを見た。それはAマッソというコンビの単独ライブで、僕にとっては初めて(そして今のところ唯一の)生で見るお笑いライブだった。Aマッソの後輩であるフワちゃんは物販のスタッフとして愛想良く働いていた。ほかにも何人かの芸人が運営のスタッフをしていたこともあり、彼女だけが目立っていたというわけではなかった。フワちゃんはAマッソの番組にちょくちょく出演しており、僕はそれを通して存在を知っていた。そんな訳で、最近の彼女の活躍を見ていると「売れる前から知ってるんだよね」と自慢したくなる。
僕がAマッソの存在を知った切っ掛けは、おそらく静岡のローカル放送局がYouTubeで配信していた番組「ゲラニチョビ」である。グーグルの優秀なAIが僕のお笑いの好みを分析して勧めてきた動画をなんとなくクリックしたのだと思う。たしかその頃はまだレギュラー番組ではない単発の企画で、数回分くらいの動画しかなかった。その全てをすぐに見終え、それからYouTubeにアップロードされていたネタを片っ端から見ていった。当時の僕は東京に引っ越してきたばかりで、なんというか感受性が通常の状態ではなく、そこにAマッソのネタがクリーンヒットした。彼女達のスタンスや人柄、境遇なんかにも勝手ながらシンパシーを覚えたのだった。
僕はここでお笑いルポライター的な文章を書きたくはない。「お笑い」というものに対して「なぜ面白いか」というような説明を付けるほど無粋な真似はないからだ。それは営業妨害になり得るし、その手のネット記事のライターみたいな人種を、お笑い芸人達の多くは忌み嫌っているに違いない。素人は大人しくただただ笑っていればいいのだ。音楽の魅力を言葉で説明するよりも聴かせた方が手っ取り早いように、お笑いも実際に見た方が早いし正確である。そこには言語化できない(あるいはするべきではない)空気感や哀愁のようなものが存在する。
そんな訳で、単純に僕は2020年におけるお笑い賞レース「THE W」において、Aマッソに活躍して欲しいと個人的に願っている。彼女らには今以上に売れて欲しい。ポテンシャルのある人間がそれに見合うだけの評価を受けていない状況を眺め続けると、この記事のように「私、お笑い分かってます」みたいな文章を書きたくなってしまうからだ。しかし、それでも僕がこの記事を書いているのは、「売れる前から知ってるんだよね」という証拠を残せる最後のタイミングが今だと確信しているからである。
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