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絶対値が高い感情や思想はどちらにでも転びうる

 昔からなぜかオレンジ色が嫌いだった。少し主張が強過ぎて汎用性に乏しいし、かなり偏見なのだけど能天気で思慮に欠ける印象をずっと抱いてきた。僕は服や小物などの身の回りのものは大体白か黒のモノトーンで揃え、ちょっと色を使うにしても基本的にはニュートラルカラーを選ぶ傾向がある。ずっと派手な色は避けてきた。そして理由はよく分からないのだけど、オレンジに関しては忌み嫌ってきたと言ってしまって差し支えない。
 しかし、オレンジのように癖のある色には愛好家が一定数いる。ある種の女性達が紫に惹かれるように、ある種の男性達はオレンジに偏愛を持っているようなのだ。通っていた高校の非常勤講師にオレンジ好きの人がいた。僕は授業などで接する機会が全くなかったので、学年集会のような行事や校内で偶然すれ違う時にしか見かけなかったのだが、それでも彼がオレンジを身に着ける傾向があると気付いた。それから、以前務めていた会社の上司にもオレンジ好きの方がいた。気付いた切っ掛けはネクタイで、確信に変わった決め手は自転車だった。まあ両者共に直接訊ねた訳ではないので分からないのだけど。

 数年前、映画の『プラダを着た悪魔』のモデルになったファッション雑誌ヴォーグの編集長であるアナ・ウィンターのドキュメンタリーを見た。彼女は長年のファッション界への貢献が評価され、大英帝国勲章を授与されているような人物であるが、インタビューの中で嫌いな色を聞かれてオレンジと答えていた。「俺は間違っていなかったんだ」と思った。意味が分かるようで分からない感覚である。
 そして最近になり、僕はオレンジが以前より嫌いではなくなっていることに気がついた。なんなら少し前にオレンジ色のシャツを買った。正確に言うと茶色に近いような落ち着いたトーンなのだけど、同じような色味のカーディガンも数年前から愛用している。素直ではない子供が特定の誰かを嫌いだと思い込んでいたが、実際には好きだという気持ちの裏返しだったというような話である。僕はそれほど純真無垢ではないのであえてもう一つ対極にあるような例えを加えると、ドSの人間は同時にドMにもなり得るしその逆もまた然りなのだ。絶対値が高い感情や思想はどちらにでも転びうるのである。

 そんな訳で、僕は対人関係において苦手だと感じる相手にも萎縮しないように心掛けている。信じられないような綺麗事を使わせてもらえば、できるだけ良い面を見ようと努める。なにせ僕自身も人当たりが良い方ではないし、誤解を招きやすいような人間だからである。

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