常連と一見
日本の外食産業におけるランチの正解はブロンコビリーのハンバーグランチである。異論は認めるが、この個人的な結論はここ七年ほどその地位を不動のものとしており、他の追随を許していない。メインのハンバーグのクオリティは申し分ないし、サラダバーに関してもその辺のホテルのビュッフェなんかより格段にレベルが高い。勿論、ランチに千円も出すのはちょっと躊躇われるけど、会計時に必ず貰えるスクラッチでは三回に一度くらい二百円の金券が当たる。僕はたまにびっくりドンキー信者と出くわすと鼻で笑ってしまう。あんなドン・キホーテと同類の飲食店なぞ眼中にないが、ロイヤルホストはこれが中々どうして侮れない。引き合いに出されようものなら、僕は大人げもなく舌戦を繰り広げてしまう。彼らとはハンバーグ同士の大将戦において平行線となるので、サラダバーの存在を持ち出して止めを刺す必要がある。しかし、そうなると店舗数や立地条件、価格帯や客層といったところにまで話が及ぶので戦いは壮絶を極める。
会社員として外回りの営業に明け暮れていた頃、毎日のランチは一大行事と言っても過言ではなかった。漠然と日々を送っているとそれくらいしか楽しみがなくなってくるのである。営業中、僕は昼時になるとグーグルマップで周辺の飲食店を調べ、ブロンコビリーがあろうものなら多少遠くても足を運んだ。むしろ、ブロンコビリー周辺で昼時になるように営業予定を組んだりもした。学生時代と違ってある程度の金銭的余裕ができたので、食べ物くらい好きな物を食べてもバチは当たらないだろうと思っていた。会社で終日事務作業をしなければならない時は、隣のビルの居酒屋がやっていたランチに通った。ある時、その店の女将さんに「いつもありがとうございます。これ、遅くなっちゃってすいません」と半分くらいスタンプが押されたスタンプカードを貰った。僕はそれを貯め切って一度無料でランチを食べた。以来、その店にはもう行かなくなった。
ある日、僕は車で同期と一緒に営業を回っていた。昼時になって当然のようにブロンコビリーに入り、僕はいつも通りハンバーグを頼んだ。ブロンコビリーなんて人生で三回目くらいだという同期は、半ば冗談で三千円くらいのなんとか牛のサーロインステーキを注文した。会計の際、「俺は要らないから」と言って彼は自分のスクラッチを僕にくれた。それを削ってみると五百円の金券が当たった。ハンバーグランチに散々通い詰め、その度にスクラッチを貰ってきた僕でさえも五百円の金券を拝むのは初めてのことだった。このようにして資本主義は回っているらしい。
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