光の中に

白い壁に薄く揺れるドアスコープの虹をもう一度みたい、と思った。

小さな光でよかった。

普通じゃなくていい。

きらきらなんてしていなくていい。

あなたとの生活、夜と朝を繋ぐ作業。

不器用だったけど、私なりの愛を精いっぱい込めていた。

暗くて狭い部屋。

ふたりだけの世界。

長い睫毛を数えてみる。

黒く透ける髪を触ってみる。

ほくろで名前のない星座をなぞってみる。

薄い肌につけた小さな痣は、すぐ消えた。

あなたはころしてはくれなかった。

ふたりで海にいく約束は守れなかった。

海になるなんて願いはもっと儚く、消えてしまった。

あの部屋は汚かったけれど、わたしすきだったよ。

多分だけど、わたししか入れないとおもう。

あなたいつも謝ってばかりだったけど、わたしダメな人って叱りながらあいしてたよ。

自分がわるいかわかんないけど、謝る癖、わたし以外にはやめた方がいいとおもう。

あなたが合わせてくれた目。

信じてくれた日々。

部屋の鍵。

わたしの名前を呼ぶあなたの声。

改札で手を振ったあと、振り返ってもいつもそこにいてくれるあなたのやさしさ。

これからもずっと、わたしだけにくれたものであればいいの。

朝起きたらあなたはホットケーキを焼いてくれている。

夜は眠れないといったらやさしいキスをしてくれる。

お天気の良い日はお散歩にいくの。

まだそんな眩い夢をみる。

それだけでよかったはずだった。

迎えに来た朝の光に隠れて、ふたりで潜った毛布はもういらない。

あとすこしで、夏が来る。

あなたが隣にいる夏はどんなものだったんだろう。

いつかまた会えたら今度こそふたりで海になろう。

深い海の底で、光をみるのはきっと眩しくなんかないから。

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