卒制の解説文

ひとつ、自分語りをしよう。

卒展が無事終わったので、卒制解説文章をテキトーに置いておく。CD‐ROMを買った人にしかわからないだろうけどまあいいや。

(冒頭の話)

参考にしたのはドイツの小説家、ジャン・パウルの「人生は一冊の書物に似ている。愚者はそれをパラパラとめくっているが、賢者はそれを丹念に読む。なぜなら彼は、ただ一度しかそれを読めないことを、知っているからだ」という言葉。
 この時点で「人生は一度きりだよ」と訴えたかったのです。
 あと、アーティスト、分島花音の曲「Love your enemy」より「欲望は絶望の隣に立っていて 甘い言葉で悲鳴を隠している」という歌詞にも影響を受けています。

(バンジージャンプの話)

校正中、後輩に「ハイ・ファンタジーの異世界にバンジージャンプってあるんですか?」と聞かれ、修正しました。冊子では違う表現になっています。バンジージャンプの起源はバヌアツ共和国の「ナゴール」だと言われています。ナゴールは成人への通過儀礼であり、大人になりたくないミライにとっては皮肉です。

(なぜか金を欲しがってるミライの話)

物語の中で、どんな人物も「本当の願い」を見つけます。金持ちになりたいという願いがあれば、その金で何が欲しいのかを問うのが魔女や魔導書の役割です。「人はドリルが欲しいのではなく、穴が欲しいのである」「顧客は速く走る馬を求め、企業は自動車を開発した」マーケティングの基礎なども芸工大の授業の一環です。

(金に囚われた人の話をする魔女のセリフの元ネタの話)

ダライ・ラマ十四世の「人間は、お金を稼ぐために健康を犠牲にする。そして、そのお金を犠牲にして健康を取り戻そうとする。人間は、将来を心配しすぎて、今を楽しまない。結局、今を生きていないし、将来にも生きていない。あたかも死が訪れないかのように生き、そして本当に生きることをしないまま死んでいく」という言葉が元ネタです。冒頭で考えていた「人生は一度きり」に続くように、「いつか終わるときが来る」「ちゃんと現在を生き、未来を生きようとしているか」を問うています。

(『即ち良い本は世界を変えていくもの也』の話)

マザー・テレサの「思考に気をつけなさい、それはいつか言葉になるから。言葉に気をつけなさい、それはいつか行動になるから。行動に気をつけなさい、それはいつか習慣になるから。習慣に気をつけなさい、それはいつか性格になるから。性格に気をつけなさい、それはいつか運命になるから。」という言葉をベースに、自分が考えました。
 この言葉は物語の、というより僕自身の根幹を支えています。書くうえでも、読むうえでも、ページをめくるごとに、何かが変わっていくといいよね、と思います。

(ミライのちょっとした話)

ミライはHSP(Highly Sensitive Person)……非常に感受性が強く敏感な人のため、聴覚、嗅覚が敏感です。人混みが苦手なため、学校も嫌いです。

(人間は二度産声を上げる話)

一年生のころに前文芸学科長、山川健一先生が「ポール・ヴァレリーのジェノバの夜」という話をしてくれたのが元ネタです。恋に破れ、自らの詩人としての才能を疑い、文学そのものを嫌悪した二十一歳のヴァレリーは自殺しようかと悩み、そして自分で新しい自分を生み出すような一夜を体験します。「ジェノバの夜」は人生のターニングポイントであると言えます。
山川先生は「君たちも『ジェノバの夜』のように、作家を目指すきっかけがあったのだろう」と問いました。この章は作者にとってのジェノバの夜、つまりこの文芸学科に入ってきたきっかけとなった事件をベースに書いています。

(クオンさんの書いた本のタイトルについての話)

聖書の「Eat, drink, and be merry, for tomorrow we die.」を「あした、死ぬとしたら」と訳した『グリモア~私立グリモワール魔法学園~』の話が元です。聖書では神を敬わず「食べ、飲み、祝え。明日はみな死ぬ」と自分勝手に生きている人々に神が怒ります。
しかし、本作品では「一瞬一瞬を大事に生きろ。明日、死ぬかのように」と訴えたい気持ちがありました。

(大災害の元ネタの話)

お気づきかもしれませんが、『大災害』は東日本大震災が元です。

(クオンさんが神を信じなくなった話)

縋るように信じていた「神様」からすべてを奪った「神」へと、心境が変わったことで呼び方が変わっています。

(クオンさんのモデルその一の話)

クオンさんのモデルの一人は、禅宗別格本山・石雲禅寺(岩手県盛岡市)の小原宗鑑さんです。雪が舞う中瓦礫の街を歩き、お経を唱えている小原さんの写真が記憶に残っている方もいるのでは。あの写真を思い浮かべて、「泥のような雲から~」という描写を書きました。仏教では、蓮は泥から生まれて泥に染まらない、最も美しい花なのだそうです。

(クオンさんが無茶する理由の話)

サバイバーズ・ギルト。つまり、大災害によって数えきれないほどの命を失ったクオンさんは、自分が生き残ってしまったことに罪悪感を覚え、それを払拭したいがために無理を重ねます。

(クオンさんのモデルその二の話)

クオンさんのモデルの一人、三代目マブリットキバさんやキバさんを支えていた方々の体験談が元です。「マブリットキバがヒーローをやめた日」を読んだとき、衝撃を受けました。

(魔女がクオンさんに語った台詞の元ネタの話)

この台詞は、坂口安吾の「堕落論」より、「人間は変りはしない。ただ人間へ戻ってきたのだ。人間は堕落する。義士も聖女も堕落する。それを防ぐことはできないし、防ぐことによって人を救うことはできない。人間は生き、人間は堕ちる。そのこと以外の中に人間を救う便利な近道はない。」からです。テレビのインタビューで「震災で亡くなった方々のことをだんだんと思い出せなくなっていく。心の中から消えていく。それがとても辛い」とおっしゃっていた被災者の方を見たとき、この言葉を思い出しました。

(未来の勇者の話)

 ここの描写がよくわからなかったと友人に言われました。確かに。本当は読者の皆様のご想像にお任せしたかったのですが、言ってしまいます。

青年は、未来のミライです(細田守の作品ではなくて)。ミライはクオンの分まで生きて、世界を変える物語を生み出す力を手に入れます。そうして願いを叶えられるようになって、ミライは何を願うのかと考えました。ミライはクオンの呪いをそのまま背負ってしまっているため、ミライもまた、救われたいのです。そしてミライは過去へ戻り、クオンを救いに行きました。そして、クオンさんの葛藤や悲しみを、ミライは一緒に背負います。だからこそ「二人なら生きていけるかもしれない」なのです。
クオンさんに生きていてほしかった、というのはミライの願いというより、作者の願いでした。今、直せるとしたら、ここのシーンは消してしまうかもしれません。

(ツクバネが告白したエピソードの元ネタの話)

高校生のころ、同級生が白血病を患ったので、みんなで手紙を渡そうとなった時の経験を思い出しながら書きました。当時の作者は骨髄移植のドナーになれる年齢に達しておらず、何の力にもなれないことを悔やんでいました。手紙にどんな言葉を並べたとしても、気休めで、他人事になってしまう気がして、悩みながら手紙を書きました。その同級生は見事に白血病を完治させて学校に戻ってきたのですが、その時に直接、手紙のお礼を言われました。とても救われた気分でした。

(プレシオとツクバネの名前の話)

名前はダジャレです。プレシオはDepression(鬱・憂鬱)と紫苑から。ツクバネはそのままツクバネアサガオから。それぞれの花言葉も紹介しますと、紫苑は「追憶・君を忘れない」。ツクバネアサガオは「あなたと一緒なら心がやわらぐ・心のやすらぎ」です。

(原初の魔女の話)

元ネタはざわざわ森のがんこちゃんです。嘘です。全知全能を制御できない女の子を書いていたらがんこちゃんになっていました。
原初の魔女はこの物語であまり救えなかったなあと後悔しています。

(口調の話)

 弟子は紙のように軽い口調、シンは「でも、だって、こうなので」と言い訳をするような口調、全知の魔女は百科全書のように重々しい古めいた口調を目指しました。魔女の口調に関しては、ただの趣味です。

(全知の魔女に真実を知らされる弟子の元ネタの話)

 真船一雄先生の漫画「K2」より、黒須一也くんがドクターKのクローンだと告げられるシーンを思い浮かべながら書きました。

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