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市川春子「虫と歌」

今回は僕の好きな漫画を紹介してみようと思う。

「虫と歌」

その出会いは新聞の記事だった。何の新聞だったかは覚えていないが、実家でとっていた新聞の、本を紹介するコーナーで取り上げられていたのを、今も思い出せる。
そこで知ったのが市川春子さんの「虫と歌」という、作品集だった。

「ひとのくずと ほしのちりの兄妹だ」

とてもシンプルな絵と、その登場人物のセリフにどうしようもなく惹かれた。
四つの話がある中の、「日下兄妹」の絵とセリフだった。

「ユキ」の愛称がある主人公は野球少年だ。彼はエースのピッチャーだったが、彼が肩を壊すところから話は始まる。
寮住まいのユキは肩を壊したのをきっかけに、親戚の家へと帰る。彼に両親はいないからだ。しかしその親戚の家にも、人の影はない。
古道具屋のその家で、ユキは「破損品」の札が貼られたタンスに寄りかかる。

(おまえどこ壊れてんだよ。俺、肩)

なんて取っ手をガタガタさせているうちに、取っ手がとれてネジ当てが飛んでいく。ユキはそのネジ当てを拾おうとしたが、ネジ当ては逃げた。
肩を壊しているとはいえ、野球少年でエースをしていたユキの手にそのネジ当てが捕まることはなかった。そして日を重ねるごとに、そのネジ当ては変形し大きくなり、少女のような形になっていく……というお話。

本当は宇宙が好きな野球少年の兄と、ネジ当てにされた彗星のちりの妹のお話です。

他にも、植物の学者から生み出された植物少年が、自分の切り落とされた指から、挿し木にされて生まれた少女に恋をする「星の恋人」。

飛行機が墜落し、唯一生き残った少年を、飛行機を墜落させた当人が人の姿を借りて助けようとする「ヴァイオライト」。

昆虫のモデルを作る長男と、その仕事を手伝う次男と、血の気が多い長女。三兄弟が、かつて長男が作り出した人の姿の昆虫に出会い、「兄弟」の真実が解かれていく「虫と歌」。

どれも「人外」と呼ばれるべき、人の姿をしているがその実、人間ではない人物たちがそれぞれ登場する。人間ではないものと人間が、恋をしたり友情を育んだり家族になっていたりする。

装丁も本当に美しく凝っている漫画となっているので、是非手にとって読んでいただきたい。


ちなみに、僕は小学生くらいの頃に「鉱物がモチーフの登場人物たちが、モース硬度別に強さが決まっていて戦う漫画があればいいのになぁ」なんて考えたことがある。
市川春子さんの「宝石の国」はまさにそれで、僕は喜んでその漫画を購入したと同時に、何年も気になっていた「虫と歌」も手にいれた。
「宝石の国」はアニメ化も果たし鉱物のブームも起こったが、その登場人物のモチーフの中に僕の好きな石がないことが、寂しくもあり安堵してもいる。登場人物として出ていたら、人気も跳ね上がり価値が高く(値段が高く)なっていたかもしれないからだ。

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