見出し画像

2023 楽しかった展示

1.中村裕太 + ユアサエボシ 「耽奇展覧」@ギャラリー小柳
 古書画や古器財を持ち寄る好古・好事の者の会合「耽奇会」(たんきかい)は、収集大好き物質主義者の私にとっては、心躍るテーマだった。まさに、オブジェが主題の展覧会だ。関連イベントで実際に開催された現代の「耽奇会」の様子もwebアーカイブされているが、本当におもしろい。
 中村さんはユクスキュルの著書を軸に、動物的な視点を反映したオブジェの制作した、ということで可愛らしい作品が並んでいた。各作品の参照文献も一体となった什器も、均質な色と質感の陶器と併せたインスタレーションも、とても良かった。ものを見せる博物館的でもあり、自宅の部屋的でもある展示空間だった。

2.長田奈緒 「紙を持つ手は紙」@ギャラリーそうめい堂
 長田さんは同年の9月の個展「目前を見回す」もさらに多様なメディウムへ日常のプリントされたものを刷っていてよかった。この展示においては、浮世絵作品を含む版画を扱う神田のそうめい堂での展示ということで、浮世絵の中のモチーフを紙に転写する作品シリーズだった。浮世絵の中に描かれた「紙をもつ手」を切り取りその線をレストランの紙ナプキンや梱包の段ボールなど紙といっても様々な紙にプリントしているのだが、線だけになったモチーフはとても繊細だった。そこで生じる紙の強さと華奢なモチーフのギャップが際立った。また、紙を持つ手の主体を想像させる遊び心も感じれ楽しい展示だった。

3.憧憬の地 ブルターニュ@国立西洋美術館
 同時期に『ブルターニュの光と風』展があり、そちらは見逃し残念だったが、今年はブルターニュが流行っていた。来場者は「ブルターニュ」地方にどんなイメージを持って来ただろうか。私はフランスに住んでいたという個人的理由もあり、自分のブルターニュ地方のイメージを持って、様々な作家が描いた情景を見比べ、共感したりするのが楽しかった。
 日光や熱海と言われれば、どうだろうか。首都からそれほど遠くない美しい風景がある行楽地。遠く離れた日本で、フランスの地方を切り口にした展示コンセプトはあるようでなく(あった?)、新鮮だった。日本の日光や熱海で同様の企画はどうだろうか、と考えてみるのも楽しかった。

4.皮膚で『見る』@MARUEIDO JAPAN
 タイトルがすでによい。『建築と触覚 空間と五感をめぐる哲学』の文中にある「皮膚で〈見て〉いる」という表現から着想されているらしい。北林加奈子、半澤友美、山西杏奈 と3人とも作品の制作メディアが異なっており、豊かな素材たちとの対話ができた展示であった。木・紙・陶・テキスタイルと多様な素材がそれから想像し得る特質とは異なるような姿であったりする様が触りたいという強い気持ちにさせられた。空気が入った飛びそうな風船が木で、糸で結ばれた陶の造形が柔らかい布に包まれていたり、漉いた質感豊かな紙のタイル、実際触れられないが、確かに皮膚で見る感覚を体感させられた目で見ているのに、不思議ととても触覚的な鑑賞体験だった。

5.山本志帆 「山をくずして」@Yoshimi Art
 年の瀬に、展覧会タイトルが気になって行った展示。山本さんは日本画を描くのだが、今回の展示のメインは自身が漉いた和紙だった。その原料は植物繊維などと自身の過去の作品や習作の紙を混ぜたもので、色や質感が様々な紙肌が並んでいた。日本画の顔料の岩石は紙パルプにする過程で、紙に描かれた顔料は重いため、底に溜まり、また顔料の粉に戻るという。キラキラ輝く岩絵具の循環、作品を壊して新しい形にしていく循環に無常を感じた。上の画像は、自宅の裏山をイノシシが走った奇跡を描いたシリーズ作品で、山本さんの自然の近くで、自然と共に黙然と、という言葉が良いのかわからないが、静かに制作を続けているような姿を勝手に想像し、羨望すらした。

以下駄文ーー
 今年は時間はあったはずなのに逃した展示も多かった。もはや今年とは思えないけれど、年始は冬の閑散期ともいえる直島に行った。それから、厳しい冬の青森(弘前周辺)、シンガポールと仕事で行ったオーストラリアのゴールドコーストやインドネシアジャカルタ、Go for Kogeiで富山、奥能登芸術祭で金沢とそのほか蔵王や那須、房総と旅に散財した。たくさんの現地で感じたことはなかなか言語化できず1年が終わってしまった。またいつか…。
 それから、京都のFABカフェのインクつくるWSで手を動かして制作するルーティンができて、より自然に興味を持ち、後半はFor Cities有楽町に参加して「再野生化」を考えて、いろいろ新たな感覚を得た。
 それでも、ずっと展示を見る事は、ものと(その裏にいる作家)の考え方を見ることの快楽に代わるものはないと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?