あたたかいスープを作る。一人で飲む。

寝過ぎたな、とぼうっとスマートフォンの灯りに目を細めながら時間を確認すると、大体早朝4時頃だった。ベッドへ潜ったのは前日の13時頃で、いちど22時頃に友人からの着信で目を覚まし、それからーー……

あまり良くはない事態だ。
1日の始まりと終わりが混濁して、体が揺り戻しを図っている。なるほどねえと思いながら半日以上振りに体を起こす。眠り姫もびっくりだぜ。
寒くなってからというもの常に白湯で満たしている魔法瓶の中身はすっかり冷えていた。魔法の効き目すら過ぎているらしい。

冷蔵庫を開けるとコーヒーゼリーがあったので食べる。食べながらキッチンの床にしゃがみ込んでラックを眺め、とりあえずたっぷりの水をケトルに任せて、何かあったかなあと探している。
カップスープやグラノーラ、乾麺、お菓子、一通り流して、パスタはありだな、と半分残っていたフジッリを取り出した頃にお湯が沸いた。ただ若干茹で時間がかかるなあと、悩んだところにミニサイズのチ○ンラーメンのようなもの(確かにチ○ンラーメンではなかった)が出てきたので負けた。食べた。やはりチ○ンラーメンではなかった。味がうすい。

一時の空腹は満たされたが、お湯がたくさん余っている。ので、スープを作ることした。
冷凍庫に保存していた白菜、キャベツ、玉葱、豚肉、もやしを取り出して、ケトルから小ぶりの鍋に移したお湯へ、玉葱と白菜を入れる。
人参を探したが、先週使い切っていたことを思い出したので、後日また買うことにする。スーパーって寒いし、買い物は面倒だなあと思うので、覚悟を決めなければいけない。

玉葱と白菜がしんなりしてきたらキャベツを入れる。まだ何のスープにするか決めていない。野菜と肉、汁があればスープになるのだ。中華だし、味の素、味噌、コンソメ……決まらないので一旦塩をひとつまみほど入れる。何になったって塩ってのは邪魔をしないが大事なところで効く。塩ってすげえや!

もやしを入れると途端に和風か中華にしたくなったが、結局コンソメキューブを早めに使い切りたかったのでクリームスープに決めた。クリームスープにもやしが入ってるところってあんまり見たことないな。まあわたしが食べるんだし何の問題もないや。

料理が好きだというにはあまりにも雑なしごとで、それでもふとした瞬間、作ろうかな、とおもう。

豚肉を入れて、ほぐれてきたら一旦火を止め、バターの代わりにマーガリンを入れてまかり通す。一気にそれっぽくなるので満足する。安い満足感である。コンソメキューブを入れて、小麦粉を取り出す。
無職だった春先にスコーンやら台湾カステラやらを見様見真似で作ってみるブームが訪れていた名残で、小麦粉とふるいは準備がある。ミキサーやらシェイカーは買えないので手動でメレンゲを作った時は達成感があった。時間を持て余し過ぎだろ。夜な夜な泡立てていたので友だちに笑われた。

スープを作りつつスコーン、久々にいっちゃいます? と調子乗り舎弟ボーイが脳内にひょっこり顔を覗かせたが、卵がなかったので断念。君はまだ眠っていて大丈夫です。羨ましいよ。

昨年、初めて小麦粉からシチューを作ってみようチャレンジに見事失敗した。ダマになった小麦粉を潰しながら、味は最高なのになあと完食した経験を踏襲し、あたたかいスープに小麦粉をふるいかけていく。手順的にはあまりよろしくない。あの時ほどじゃないが、小さめの粒が錬成されかけている。落ち着いて、ゆっくり、ちいさく溶かす。

計画性がなくても入れるものさえ間違えなければどうにかなるのが、お菓子作りと違って料理のいいところだなあ。と、むかし母が作った味噌汁やルーものを思い返す。
味噌汁とカレー、炒飯には何を入れてもいいルールだったようなので、ありとあらゆる、多種多様な一夜限りのメニューが食卓には出されていたのだった。
一度、「あの炒飯が美味しかったからもう一回作って」とお願いしたら苦笑いが返ってきた。なんで?と当時は思っていたのだが、大人になって自分である程度料理をするようになってから何となくわかった。パッションで料理をしている。なるほどね……あれは本人もレシピを知らない(定めていないので覚えてない)SSRメニューだったわけだ。
今はさらに思い出補正がかかり、わたしの中で幻の炒飯となっている。元気か?母よ、気が向いたら今度炒飯作ってご馳走しますね。

クリームスープと呼ぶにはまだ若干さらさらしているが、まあよいでしょう。最初のお湯が多かったのと、野菜も全て水を含んでいるものなので当初の予定より嵩が増えている。シチューを作る時はほぼ無水でやるのであまり見慣れないが、最近はよくスープを作っては食べているので多かろうがあまり関係はない。
豆乳をくるりと混ぜ入れて弱火でもう一度あたためて、完成。
皿へよそう時に黒胡椒を振る。

窓の外、少し遠くで始発の電車が走り出していた。

切る。煮る。混ぜる。
一定の間隔で、同じことを繰り返す。繰り返していくと形が変わる。ゆっくり、確実に、じんわりと。

溶ける。弛む。香る。
雑な手際でも、時間をかけて付き合うとほどよく自分の好きなかたちになっていく。

そういう作業は、きらいじゃなかったんだった。


うーんなにか描きたいな。
でも、とりあえず、今は目の前の、湯気が立つあたたかいスープを飲む。野菜を食べる。

それから、使ったものを片付けて、残りは今日の夕飯に回して。それから。

悩み多き冬の気配、眠り続けているわけにもいかない。

2021.11.21 あとり依和
(浮遊信号pixivFANBOXより再掲)

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