見出し画像

君は『勝訴』を持って裁判所から飛び出したことがあるか

人間誰しも「死ぬまでにやってみたいがなかなか機会がないこと」があると思う。
例を挙げれば、
・在廊
・謁見
・登壇
・上梓
・主宰
・代打
・緊急帰国
・「お見事ね」と拍手しながら暗闇から登場
・高級レストランで食事後「シェフを呼んでください」
等など。

先日、そんなことのうちの一つが叶った。

「判決内容が書かれた紙を持って裁判所から飛び出す」

私は法律事務所に勤めているので、法律事務所勤務以外の人に比べれば、できる確率は高いはず…と思いながら20年。やっとそのチャンスがやってきた。

-🌻-🌻-🌻-🌻-🌻-🌻-🌻-🌻-🌻-
私が仕える弁護士(以下、ボスという)が社会的に注目を集める某事件の弁護団に入っており、その事件の判決が出る。そして、弁護団はおじさんが多いので判決内容が書かれた紙(以下、ハタという)を持って、裁判所正門で待ち構えるマスコミ陣のところに走って行くのがしんどいらしく、ボスから「伊勢崎さん、ハタ出しやってくんない?」との打診を受けたので、

あ、あたすでいいんですか!?

「もちろんです。やります。やらせてください!」と二つ返事で引き受けた。

-🌻-🌻-🌻-🌻-🌻-🌻-🌻-🌻-🌻-
2月某日。
特に予行演習することもなく、当該事件の判決期日を迎えた。

午前11時。弁護士ロビーに関係者集合。ここで支援団体の人が作ってくれたハタ5本を受け取る。

支援者のみなさん

午前11時05分。入廷行動。
テレビ等でご覧になったことがあるかと思うが、原告団などが裁判所に向かってぞろぞろと歩いていくシーンの撮影(これが「入廷行動」)をする。
事前にマスコミと弁護団長で時間を調整したうえで、原告団が裁判所正門付近で待機しておき、マスコミより合図が出たら歩き出すという段取りだ。

※「入廷行動」のイメージ画像

午前11時10分
法廷前で、旗出し担当の弁護士(A弁とY弁)と、用意してもらったハタの内容の確認。
「勝訴」「○の責任を認める」など5種類あるうち、使いそうなものをA弁に教えてもらう。裁判長が判決主文を読み終えたらすぐに法廷の外に出て、各自が持つハタを確認し、そろって裁判所正門にいるマスコミ陣のところに行くことになった。

ハタ(突っ張り棒に紙を巻きつけて?)

そして法廷に入る。大阪地方裁判所202号法廷。通称"大法廷"だ。

11時25分頃
書記官より「裁判長の許可により、マスコミによる法廷内の撮影を2分間許可します」とのアナウンスがあり、撮影が始まる。

11時30分
裁判長、右陪席、左陪席入廷。一同、起立して礼。
裁判長が主文を読み上げ始める。当事者表現が複雑だったため「えーっと?どのハタを出せばいいのだろう」と考えているうちに、A弁とB弁が法廷の外に出たので、私も急いで外へ出る。法廷前で必要なハタを選別し、階段を降り正面玄関へと急ぐ。B弁から、ハタを上下逆さまに出してしまい、長年いじられ続けている弁護士がいると聞き、ハタの向きをチェックしながら裁判所正門を目指す。裁判所正面玄関から正門までは6~70m先ほどだろうか。A弁の「走ろっか」という声で小走りになる我々。正門に到着し、待ち構える数十人のマスコミ陣の前でハタを広げようとすると、だるそうな裁判所職員より「そこから出て」と裁判所正門のラインを指される。どうやら裁判所の敷地内ではハタを出す行為は禁止されているらしい。

なぜHG創英角ポップ体!?

これは実際の写真である。
私の持ったハタは「勝訴」。母ちゃん見てくれこの姿。ハタを広げるとカメラが一斉にカシャカシャと音を立て、フラッシュが光る。もちろん私を撮影してるわけではないが、「こっちもお願いいします」「こっちもお願いします」とあちこちから声をかけられて、気分はすっかり大スター。5分ほどハタを掲げ続けていたら腕がつらくなってきたので「いつ終わるのだろう」と思っていたところで、A弁も疲れてきたのか「このへんでいいっすか?」とマスコミ陣に声をかけてくれ、撮影が終わった。頻繁に写真撮影をされる有名人の大変さを思い知る。

マスコミ陣がそそくさと撤収の準備を始める。なんなら伊勢崎はこのあと個撮もオッケーですよ!(シーン…)

その後、すぐさま弁護団にて判決検討会議が行われ、そして「記者レク」というマスコミへの報告と質疑応答が行われたが、私は支援団体の方にお借りしたハタを返し、事務所に戻った。

-🌻-🌻-🌻-🌻-🌻-🌻-🌻-🌻-🌻
その日の夜、「勝訴」画像を私の遺影にし、子孫に武勇伝を語り継いでもらおう、そんなことを考えながら眠りについた。子孫のみんな~!こんな先祖がいたこと、忘れないでね☆



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?