両側面の意味を持つアメリカの人事制度 ①

アメリカにおいて、人事に関する「制度」というものを考えるにあたり、よく挙げられるものとして従業員ハンドブックやジョブディスクリプション、報酬、評価などがありますが、こういったものはなぜ必要と言われているのでしょうか。


答えは、皆さんがおそらく頭に浮かべられたであろう通りでして、コンプライアンスを守るという側面と社内の最適化(=オペレーション)の側面があります。ただし、上述の人事制度の中には「片一方の側面しか考えていない」、という物もあるのではないでしょうか。

先に挙げた例を含め、人事制度にはコンプライアンスと社内最適の両側面が含まれており、片一方にのみ着目して「いる/いらない」などを判断する、あるいは片一方のファンクションしか活用しないのは少し違うのかもしれません。

今回は例に挙げた人事制度の両側面を見て行きますが、現在社内にある制度を更に活用していく、また不足する部分があれば補うあるいは改善していく、という考え方で読んでいただけたらと思います。 


そもそも、何故その両側面が大事なのかという事を考察すると、アメリカという国の成り立ちに大いに関係があるのではないかと考えています。

アメリカは、日本の様に「同じ世界観の常識を持った人がほとんど」という訳ではなく、自身や先祖の出身国も違えば言葉も違う、宗教や教育レベルも多種多様であるため、持っている考え方や常識が人によって大きく異なります。そして、それらの人々が共通で使える物差しが必要だったため、アメリカは法律主義になっていった部分もあるでしょうし、食べ物の味や色が極端な事が多いのも「誰にでも分かりやすいものである事が重要」だからだと思います。端的に表現すると、アメリカ社会は「分かりやすさを追求する社会」なのかもしれません。

従って、会社にも分かりやすさが求められ、社会的な物差しである法律の他に会社内での物差しが必要になり、その一つとして人事制度があるのかと思います。 


その人事制度の両側面を見て行くと、例えば従業員ハンドブックには法律やレギュレーションを守る、あるいはハラスメントや差別をしないなど、コンプライアンス面での重要性は周知の通りですが、オペレーションの面でも役に立ち、勤務態度や服装、情報管理など、日本でいう「社会人」としての心得やビジネスマナーの様なものを伝える手段、または就労時間や休憩時間、休暇など、会社の基本情報が載っている事によって、人事担当やマネージャーが都度質問を受けそれを説明するという手間が省ける、という機能や役割もあります。

ちなみに、アメリカの法律では従業員ハンドブックという書面を持つ事は義務ではありませんが、トラブルが生じた際に社外からまず見られるものと言われています。そのため、基本的にはどの会社も持っているものであり、また内容が常に最新の物に更新されている必要があります。

ジョブディスクリプションに関しては、各々の職務や責任などを記した書面として知られており、社内のオペレーションを分かりやすくする物という認知の方が強いかと思いますが、やはりコンプライアンス面の要素も多く含まれます。


アメリカでは、会社は「お金を得るための場所」「生活のための手段」という様な考え方が一般的なため、何をしていくら貰えるのかが重要になります。そして、給与は日本の様な勤続年数ではなく、仕事の種類や難易度で決まってくるため、従業員には自身に課されている業務が何なのか、また期待値はどんなものなのかという事を知らせる必要があります。

コンプライアンス面では、例えば従業員が「言われた仕事に納得がいかない」、あるいは「職務に対して給与が見合わない」といった不満を持っている際、ジョブディスクリプションが無い、あるいは記載内容が不足している場合はコミュニケーションが難しくなるだけでなく、大きな問題に発展した場合は外部に対して会社の状況を説明できるものが無いため、圧倒的に不利な状況になります。 

また、「ジョブディスクリプションを作成すると、そこに書いていない仕事はしてくれなくなるので作らない」というお話も耳にする事もありますが、書き方を工夫すればしっかりと会社の意図も反映でき、主業務以外も手伝って貰える形の内容を作る事ができます。

しっかりとした内容が作れると、社内の職務内容や責任範囲がある程度明確になるので業務の最適化が図りやすくなるのとともに、報酬や評価などの人事制度を構築する上での基礎が出来上がります。(逆に、この部分がしっかりと整理されていない状態で他の制度を作っても、効果的なものはできません)



次回は報酬や評価の制度に関する両側面を中心に見て行けたらと考えていますが、まずは「人事制度にはコンプライアンスと社内最適という二つの側面がある」という考え方を基に皆さまの社内の制度を見ていただき、改善が必要な場合はそのきっかけになればと思っております。 (2016年4号)


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