組織の空洞化が進む在米日系企業と今後の取り組み

ここ数年、企業訪問の際に見聞きする話として「組織の空洞化」というものがあります。そのケースの多くが「次期トップマネジメント候補がいない」あるいは「候補として考えていた人が退職してしまった」などというケースで、駐在員マネジメントまたは長年マネジメントを務めている数名のベテランのローカル社員を除いた場合、組織のほとんどが勤務年数の少ない社員であるというものです。そこで、空洞化の要因や今後取るべきアプローチについて考察してみました。 


年代による勤務年数の違い
まずはアメリカの労働市場の背景から整理すると、雇用状況は良好で「完全雇用状態」と言われています。完全雇用というのはOECD(経済協力開発機構)によると失業率(Unemployment Rate)が4%~6.4%程度の事を指しており、2019年7月のアメリカの失業率(U3) 3.7%はその数字に該当し、パートタイムも失業とみなす失業率(U6)を見ても7.0%となっています。

退職(Separation Rate)に関しては2019年6月で3.6%ですが、その内訳としては自主退職者が2.3%、解雇者が1.1%となっています。また、勤務年数(Employee Tenure)は2018年1月で4.2年となっており、これは2016年1月から変わっていない様です。ただし、ここで重要なのが年代別の勤務年数なのですが、55歳から64歳は10.1年である一方で、25歳から34歳は2.8年という結果が出ています。これを見ると、Entry~Intermediateレベルの人材は、組織のマネジメント候補になる前に転職してしまっていると考える事ができます。


組織に求められるキャリアパス
では、この25歳から34歳の人材はなぜ2-3年で転職をしてしまうのでしょうか。この年齢層の人たちは一般に「ミレニアル世代」と呼ばれていますが、この世代が求める報酬としてTraining and Developmentの需要が強いとされています。これは、「将来的にしっかりお金を稼げる様に経験やスキルを積みたい」という様に捉える事ができ、それが求められない場合に転職という選択をする事が考えられます。つまり、「将来への不安」や「今後の不透明さ」が離職率の増加に繋がると言えるのではないでしょうか。

そのため、組織がキャリアパスを描けるかどうかで人材の定着率は変わって来ると考えられ、「この組織に入るとこの様な昇格機会がある」あるいは「この組織に入るとこういったスキルと経験が身につく」などを明らかにする必要があります。逆に、人数の都合で昇格の見込みが無い中小規模の組織では、長期雇用を見込まない組織戦略を考える必要があるのかもしれません。

ただし、昇格の際は「昇格に応じてどの程度の給与が見込まれるのか」といった部分もキャリアパスに含まれる事や、昇格が見込めない組織でも昇給の余地はあるはずなので、リテンションを考える際は給与面も非常に重要なポイントとなります。


リテンションのために必要な報酬設計
給与面を見るとアメリカの人件費は高騰しており、全国の最低賃金は時給$15を目標に上昇していますが、これを年間給与に換算すると、週40時間働く場合は$31,200になります。また、現在Exemptの最低年収が増加する法案が承認待ちの状態(FLSA Threshold)で、$23,660から$35,308になると言われており、2019年の大学新卒者の平均給与は$51,347と見込まれ、昨年の$50,390から更に増えている状況です。

そして、毎年この時期になると話題に挙がる「翌年の人件費予算の上昇率」に関して、2020年は3.3%の増加が見込まれています。近年は毎年3%程度の増加が続いていますが、この数字は個人の昇給率ではない事と、人件費の高騰に伴いリストラができる一般的なアメリカ企業のものであるという事を認識する必要があります。

解雇によって人件費の是正をする文化がない日系企業では、毎年予算が増え続ける形は向いていない可能性がある事や、個人の昇給率は評価結果と市場給与相場との乖離(Compa-Ratio)によって決まる場合が多いので、この3.3%の数字を間違って解釈する事は避けたい所です。

給与に関して重要なのは、昇給機会や金額の考え方が明確である事と、現在の給与額が適正であるという事ですが、これらを決める上で内的要因と外的要因をしっかりと分析する事がポイントです。


組織の空洞化を防ぐにはマネジメント候補となる中間層の人材確保が必須であり、組織に残ってくれる優秀な人材を増やすアプローチが欠かせません。そのためには、組織がキャリアパスを明確にする事が大前提となり、中長期的なプランと短期的な対応に関して取り組む事が重要です。

年度末が近づくにつれて、昇給に関する話題が挙がり始めると思いますが、この機会に「昇給」という短期的な対応だけでなく、「キャリアパス」という中長期的な人事プランに関して考えてみられてはいかがでしょうか。(2019年2号)


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