採用環境の推移とあるべきベネフィットの変化

最近よく話題に挙がる「就労ビザが取りにくくなっている」という傾向や、各企業が目標とする「ローカル化」に対するアプローチが少しずつ進んでいる中で、在米日系企業の採用環境も年々変化しています。

一方で、各日系企業が提供する団体医療保険は、これまでと同様に充実した内容のものであるケースが非常に多い印象がありますが、それが採用やリテンションに関してどの様な効果をもたらしているのか、また「ウチは医療保険が良い」という事が、現在の採用マーケットに合っているのかという点に着目し、考察してみました。


今までの採用環境とこれからの人材市場
多くの日系企業がアメリカに進出を始めた1980年代後半から2000年代までは、ビザサポートが比較的容易だった事もあり、採用はアメリカにいる日本人あるいは日本語が母国語レベルの人材を採用するケースが多かった様に感じます。現在は、ビザ取得が困難になってしまった事やローカル化を目指す中で、採用する人材の幅が以前よりも広がっている傾向が見受けられます。

日系企業は、米系市場に比べて「基本給が少し低く、保険の内容が良い」という報酬バランスの所が多い様ですが、これは採用対象となるマーケットが「在米日系社会」だったからこそ通用した形なのではないかと考えられます。ビザサポート前提で雇用する場合は、周りの日系企業の動向に沿う事が好手だったものの、ビザサポートをしない採用、あるいは求めるスキルに「日本語」が優先されない場合は、人材市場は在米日系社会ではなくアメリカという事になるため、今までとは違うアプローチが求められる可能性があります。

在米日系社会ではなくアメリカにある会社を視野に入れるという事は、給与水準やベネフィット、会社のアピールの仕方を、アメリカの人材市場に対して有効な形でする事が必要になると考えられます。

参考にすべき指標やデータ
採用を考える際、あるいは現従業員に対する報酬プランを考える際に、給与水準や保険の指標やデータをご参考にされる方は多いのかと思います。指標やデータを参考にする場合は注意が必要で、現在見ている資料がどういったものであり、それをどう解釈し参考にするべきなのかという部分を明らかにできなければ、間違った方向に進んでしまう事も想定されます。

例えば、日系企業へのアンケート調査をまとめた様な資料は、アメリカの人材市場から採用を考える場合は不向きであるという事や、そもそも記載されている数値が「在米日系企業へのアンケート結果」なので、対象となる母数の少なさによる集計数値のブレも大いに気になる所です。アメリカの人材市場からの採用を考える場合、日系企業へのアンケート結果はあくまで感覚的な参考物として捉え、状況に則したデータを入手し考察する事が良いのかと思います。

つまり、採用やリテンションに関して、どこを対象としているのかという事がポイントで、在米日系社会の中の人材を採り合っているのか、それともアメリカの人材市場なのか、アメリカの人材市場でも採用に関する競合が小規模のマイナーな会社になるのか、あるいは大手企業なのかという部分を考えていく必要があります。


医療保険以外で注目されるベネフィット
ベネフィット(福利厚生)と聞くと、医療保険などの保険関連がまずイメージされる事かと思いますが、アメリカでは様々な種類のベネフィットプランが存在します。考え方としては、ボーナスなどの金銭的な報酬であるDirect Compensationや、保険などの準金銭的なものやフレックスタイムなどの非金銭的なもの(環境型報酬)であるIndirect Compensationという2つに大別され、各企業で様々なベネフィットプランが考えられています。

プランの内容は、例えば地域性(自動車の運転のあり・なし)、年代や性別など、リテンションや新規採用の対象者の生活環境によっても異なるため、企業の戦略に応じて大いに変わって来るはずのものです。例えば、自社のベテラン社員を引き留めたいという事であれば医療保険の充実がキーとなる可能性があり、子供を持つ社員に安心して働いて貰うためにはフレックスタイムを増やす事、ミレニアル世代などの人材を採用したいのであればオフィスのデザインや環境、トレーニングプログラムの充実などが優先されるかもしれません。

「それは分かるけれども、ウチは人数規模的にそれを考えている余裕がない」という場合は、外部の専門家にご相談されるのも良いかもしれませんし、Voluntary BenefitやCafeteria Planなどの導入を検討してみるのも良いのかもしれません。

ちなみにVoluntary Benefitなどのベネフィットは、従業員が自身に合った内容のサービスを購入できる形を会社が用意するものであり、会社には費用負担はなく、従業員は通常よりも割安でしかもサービス購入時に税金控除されるというメリットがあります。(この様なベネフィットを提供している会社としては、サプリメンタル保険を扱うAflacや、交通系ベネフィットを扱うWageWorksなどが筆頭に挙げられます)



企業のベネフィットプランとして、医療保険を充実させる事も良い形なのかもしれませんが、それが現在最も有効な形なのか、また在米日系企業の皆さまに課されているミッションを全うするための採用に適しているのかなどを、再度検証してみると良いのかもしれません。

企業としての前進、あるいは競合他社との差別化を計る中で、皆さまの組織のベネフィットの在り方に着目されてみてはいかがでしょうか。(2018年4号)


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