H1-Bビザの行方と変換期を迎える日系市場

今年に入ってあらゆる所で耳にする話題として、アメリカの新大統領が及ぼす各方面への影響が筆頭に挙げられます。その中でも外国人やビザに関する政策が気になる所ですが、今回のNews Letterの内容は、最近USCISから発表されたH1-B ビザに関するニュースと、その流れも相まって迎えるかもしれない在米日系企業の転換期といった点に着目してみました。


最近のニュース: H1-Bビザのプレミア選考の中止
最近のニュースによると、2017年4月3日からH-1Bビザのプレミア申請(追加で$1,225を支払う事によって15日以内に返事を貰う申請方法)に対する選考が一旦中止(Suspend)される事になりました。この対象は、既にH1-Bビザを持っている人でこれからビザ更新(最初の3年が終わる人)を行う、あるいは発行元を変更するビザトランスファーの人も含まれる様です。

つまり、いつ返事が来るか分からない方法でしかH1-Bビザ申請ができなくなったため、ビザ対象者の勤務開始予定の目処が立たないだけでなく、ビザの認可に対する期待値も変わってしまうという事になります。

「これは暫定的な処置なので、しばらくすればまた元通りになるだろう」という考え方もあるかと思いますが、そもそも政権交代以前からH1-Bビザの審査が厳しくなって来た傾向がありましたので、いずれにしろ今までと同様の感覚で申請できるものではなくなってしまう可能性がありますし、このままプレミア申請が長期に渡って認められない事態も考えられます。

そのため、今回の発表は「ビザの申請方法が一つ減っただけ」というよりも、むしろ今後のH1-Bビザを用いた採用に対して、深く考える機会と捉えても良いのかもしれません。なぜなら、この件が在米日系企業に与える影響は決して小さくはないからです。

さらに言及すると、今までH1-Bビザで日本人を雇って業務を回す形態を取っていた組織にとって、運営の仕組みや業務フローを見直さなくてはならないタイミングに突入したと考えられるのかもしれません。


日系企業への影響: 同水準のサービスや組織運営の維持が困難になる
今回の発表は、社内にH1-Bビザで働いている従業員を抱える組織の全てに対して影響を与え、その人数が多ければ多い程深刻なものとなります。なぜならば、ビザ延長を行っている/行おうとしている従業員が今後働けなくなる可能性がある他、仮にその人の代わりを雇おうとしても、H1-Bビザでの採用(新規申請、他社からのトランスファー)も時間がかかるのでは、通常業務を回すのが困難になってしまう事も考えられるからです。

また、H1-Bビザの審査が厳格になる事によって生じる問題はビザ延長や採用という面だけに留まらず、今後の人員構成やサービス内容にも影響を与えかねないという事がポイントです。例えば、H1-Bビザ保持者に与えられていたポジションは、市場にH1-Bビザ保持者がいる間は替えが利いたものの、いなくなってしまった途端に替えが利かなくなってしまうケースが考えられ、その場合はどの様な人材でそのポジションを補うのかという問題が生じます。

そもそも、H1-Bビザは職務内容や給与が高い専門職用のビザであるものの、実情はそうではないポジション/職務内容に対して発行されている事も多々ある様でして、その場合は「職務内容は高度なスキルを必要としないが煩雑」、「日本語を高いレベルで話せる」、「給与が米国水準よりも低い」といった特徴が挙げられます。突き詰めると、ほとんどの場合が「日本的な感覚で働いてくれる人材」として融通の利く働き方が求められている他、日本人ウケの良いサービスを提供しやすい、または日本流のマネジメントで運営しやすくなるという思惑が潜んでいるとも捉えられます。

しかし、仮にH1-Bビザで働ける人材がいなくなってしまうと、このポジションには現地採用者(市民権/永住権保持者)、あるいは日本から派遣されている駐在員のいずれかを配置する形になるかと思います。そうなった場合、今までと同様のサービスや組織運営(人件費、マネジメント)が本当に保てるのでしょうか。

そういった状況では、人件費の上昇が考えられる他、人材不足で日本語サービスの提供が難しくなる、あるいは人員構成が変わる事によってマネジメント方法の見直しが必要になるのかもしれません。


今後の方向性: 変換期を迎える在米日系市場
対象ポジションの職務を、日本から派遣されている駐在員がカバーするという事は選択肢には挙げられるものの、駐在員は本来のミッションを優先する必要があるため、あまり現実的ではありません。

そうなると、対象者は現地採用者(市民権/永住権保持者)になりますが、その場合は「日本語を高いレベルで話せる」スキルを持っている人が限られる事や、募集の際の給与をH1-Bビザとは異なる米国水準に合わせなくてはならない可能性がある事を念頭に置く必要があります。また、組織の運営方法もいよいよ日本流から米国流に改める必要が生じる事も考えられ、その運営方法に対応できるマネジメントやマネージャーが必要となるので、やはり組織の人員構成を変える必要性に迫られるかもしれません。

更に、サービス面の大幅な見直しも考えられ、「日本語/日本流の対応」を提供するという形を見直す、あるいは提供価格を変える(上げる)といった措置も考えられます。これは、サービスを提供する側だけでなく、サービスを利用している側にも影響が生じるため、日系市場に大きな変動がもたらされる事も考えられます。


今回挙げさせていただいたポイントは、考えられる事のほんの一例に過ぎませんが、いずれにしろこの件への対応には頭を悩ます事になりそうです。しかし、より良い手を打った組織が今後活躍して行くであろうと捉え、短期的ではなく先を見据えた対応をして行くのも良いのではないでしょうか。 (2017年2号)


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