Exemptの最低年収の上昇とFLSAステータスの基本

2020年1月1日から、アメリカ全国のExemptの労働者の最低年収が上昇します。このレギュレーションアップデートの対象となるExemptステータスがどれになるのか、また気を付けるべきポイントを整理すると共に、アメリカの労働社会の基盤となるExempt/Non-ExemptというFLSAステータスに関して説明します。


今回の最低年収のアップデートに関して
今回、米国労働省(DOL =Department of Labor)から発表があったのは、2020年1月1日から一部のExemptの労働者の最低年収のラインを上げるという内容で、対象となるのはAdministrative Exemption、Professional ExemptionとHighly Compensated Exemptionになります。金額は、AdministrativeとProfessionalが$35,308 (現在は$23,660)、Highly Compensatedが$107,432 (現在は$100,000)という事になりました。

注意すべきポイントとしては、この金額に満たない場合はExemptであっても残業代支払い対象となる事と、これらの金額に到達するために変動給/賞与(Non-Discretionary Bonus)を上乗せする場合は、年収の10%以内に留めなくてはならないという事が挙げられます。(例えば、Salary $32,000 + Bonus $3,500ならOK)

また、残業代支払い対象になるという事は、Exemptであっても勤怠記録を残す必要が生じるだけでなく、「Non-Exemptに降格した」という様な雰囲気になってしまう事も懸念され、モチベーションに悪影響を与えかねないため、対応に関して慎重に考えて行くべきなのかもしれません。

なお、ニューヨークとカリフォルニアに関しては、この全国の内容とは異なる形でExemptの労働者の最低年収が設定されているので、注意が必要です。


Exempt/Non-Exemptとは何なのか
日本とアメリカの労働社会の決定的な違いは、「終身雇用制度」という長期雇用をベースとしたジェネラリスト社会と、「Employment At-Will (任意雇用)」という長期雇用だけでなく短期雇用も考慮されたスペシャリスト社会とも表現できます。

日本の終身雇用制度では、ジョブローテーションや業務のオーバーラップが多く「就社」と表現される一方で、アメリカのAt-Willでは、基本的に職種を変更せずに熟練度を上げて行く「就職」という様な形になっています。(会社が変わっても職種は同じ) また、給与や立場に関しても、日本では就いている職種や責任よりも所属組織での在籍年数によって給与や立場が変わって来る一方で、アメリカでは職務内容と責任範囲によって異なります。

ちなみに、アメリカの雇用において「雇用契約」が用いられる場面は限定的で、ほとんどの場合が「雇用関係を結ぶ」形になっており、その場合は「雇用する側もされる側も、いつでも理由の有無にかかわらず雇用関係を解消できる」という事になっているのも特徴的です。(この部分がAt-Willの大原則となる)

また、アメリカでの報酬は一般的に「時給」という形で支払われ、その場合は一週間に40時間以上働いた場合は残業レートが適用され、それ以降の労働に対して通常時給の1.5倍の時給が支払われる形になりますが、Non-Exemptの労働者は全てこの時給という形で報酬を手にします。(残業代計算に関しては、これ以外の方法も必要になる場合があるので注意が必要です)

そのため、雇用側もなるべく余計な残業が発生しない様に業務の交通整理をする事が求められ、その責任を担っているのがマネージャーなどの管理職になります。通常、管理職はExempt区分とされているため、時給では無く「年収」という形で報酬を得る事となり、これには残業代という概念が無い一方で、Non-Exemptよりも高い報酬設定になっています。

極端な表現をすると、アメリカでは管理職になると職務内容や責任範囲が増え、例えば年収が日本円で言うと2,000-3,000万円クラスになる可能性がある一方で、その金額に見合った成果が出せなかった場合は解雇となるという事で、「報酬=労働対価」という様なイメージになるのかもしれません。


MisclassificationとBack Wage
では、最低年収さえクリアすれば全員Exemptになるのかというと、そうではありません。従業員管理の観点からは、時間管理の手間や残業代のコントロールなど、Exemptに区分した方が生産的にも思えますが、このステータス区分は会社の裁量で定めるものでは無いので注意が必要です。つまり、「〇〇Managerという肩書にしている」「ある程度責任や権限を任せている」というだけではNGとなってしまいます。

Exemptionに関する定義はFLSA(Fair Labor Standard Act =公正労働基準法)によって定められており、AdministrativeやProfessional、Outside Salesなど、いくつかのExemptionが存在し、対象者がそれぞれの定義に該当しない限りExemptと区分する事は認められないため、注意が必要です。

もし、このステータス区分に間違いがあり、例えば本来Non-Exemptであるはずの従業員がExemptとされていた場合などはMisclassificationとみなされ、罰金に加えてBack Wage(未払給与支払)も発生し、Misclassificationによって従業員が機会損失してしまった全ての期間を対象として、未払いとなった給与/残業代の支払いが求められます。

なお、そのMisclassificationが故意によるもので悪質とみなされた場合は、雇用者に対して禁固刑もある様です。


アメリカの賃金の傾向
今回は一部Exemptの最低年収が引き上げになった事にフォーカスしていますが、全国各エリアの最低賃金も上昇傾向にあります。国全体(Federal)の最低賃金は何年も変更されていませんが、州(State)や地方(Local)単位では年々上昇しており、多くの州が時給$15を目指した賃金上昇がトレンドとなっています。

この最低時給$15の人が週40時間働いた場合、年間に換算した際の給与は$31,200になるのですが、これはあくまでも最低時給なので、経験がある人に対しては当然それ以上である事が期待されます。また、National Association of Colleges and Employersの発表によると、2018年のアメリカの大学新卒社の平均給与は$50,944であり、STEM系の学位(Science・Technology・Engineering・Mathematics)に関してはそれよりも多く、Computer Scienceに関しては$71,411だったとされています。

アメリカでの人員計画をプランニングする際、あるいは適切な給与レンジを設定する際は、最低年収/賃金などのラインを知っている事は最低限でしかなく、こういった給与動向などの情報入手方法やデータを正しく読み取る方法などを知っておく事が、成功に繋がる大きな要因となります。


アメリカにおけるHRの重要性
アメリカでは給与動向だけでは無く、頻繁にアップデートがある雇用/労働関連のレギュレーションの把握も組織を運営する上で不可欠となっています。そのため、各社のHR(Human Resources)部門では、セクションごとに専門家が存在していますが、その部分だけでも終身雇用の仕組みとは大きく異なると言え、日本の「人事」の業務とは全く別物であるという認識でいる必要があります。

アメリカで組織を円滑に運営して行くためには、アメリカの労働社会に適応する事がポイントとなり、その重要な部分を担うHRの機能の重要性や仕組みの理解を高めて行く事も欠かせません。

今回のExemptの最低年収やそのステータス区分というのはHRのほんの一部分に過ぎませんが、これを機に日米の労働社会の違いや自社組織のあり方に関して考察されてみるのはいかがでしょうか。(2019年3号)


Twitter: https://twitter.com/KOgusu3
HR NAVI -HR情報サイト-: https://hrnavi.solution-port.com
HR動画: オグのHR Café

本内容は人事的側面から実用的な情報を提供するものであり、法的なアドバイスではありません。また、コンテンツ(文章・動画・内容・テキスト・画像など)の無断転載・無断使用を固く禁じます。

日本ではまだ正しく知られていない「HR」は、今後日本が「限定雇用」型の働き方に向かっていく中で必要不可欠な分野となります!HRエヴァンジェリストとしての活動サポートの方、何卒宜しくお願い致します!!