採用に関わる要因とその実態 ~Ban the Box , Salary History Ban, Salary Benchmarking~

ここ数年、就労ビザ(H, E, Lなど)の取得が困難になり、ついに学生用のF1ビザも難しくなったと言われておりますが、前回のニュースレターで書かせていただいた「採用環境の推移」の内容の通り、在米日系企業ではビザ発行を伴わない採用活動が増えている傾向もあり、最近では採用周りのご相談をいただくケースが増えて来ている様に思います。

今回は、ビザを伴わない採用、つまり「アメリカにある日系社会」では無く「アメリカの人材市場」から採用候補者を探す際に注意すべき点をまとめ、考察してみました。


募集ポジションに必要な「Requirementベースの採用」
アメリカでは、採用に平等性を持たせる流れが加速しており、応募者に対して「募集ポジションのRequirementをこなせるかどうか」という観点で採用の合否を決める事が一般的となって来ています。つまり、人種・性別・年齢や「過去どうだったか」という事よりも、「これからどうなのか」「このRequirementをこなせるのか」という観点で考えるという事なのだと思います。

そのため、バックグラウンドチェックやクレジットヒストリーなどを行う際は、慎重に検討する必要がありますし、Ban the BoxやSalary History Banというレギュレーションが各州や行政地区に広まっている事も留意したい所です。

Ban the Boxとは、企業が採用過程で犯罪歴があるかどうかを加味する事を廃止する市民団体によるキャンペーンで、アメリカの場合は行政地区ごとに採用されており、ニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴなどの主要都市で適応されています。(行政地区ごとに細かい内容は異なります) ちなみに、Ban the Boxという名称は「ハコを無くす」という意味で、応募する際の用紙などに「犯罪歴があるかどうか」というチェックボックスを無くすという目的から来ているそうです。


Salary History Banを採用する州が増加している背景
今月1日からNJ州全土で適応となったEqual Pay Actですが、これは男女の賃金差別を禁止する法律で、社内の同等ポジションに就く従業員に対する「性別の違いによる賃金の差異」を防ぐためのものになります。(現在同一ポジション内で、性別による著しい給与の差がある場合は要注意です)

この背景には、アメリカの労働市場の歴史が関わっていると考えられ、女性が男性と同等の職務をこなしても、女性の賃金の方が低かった時代があった部分から来るそうです。(もっとも、女性が男性と同等の「職務」が与えられない時代も長かったそうですが・・・) その流れが、多かれ少なかれ現代にも引きずられている部分があり、一度給与水準が不当に低い職務経歴を作ってしまうと、転職をしても足元を見られてしまい、いくらか賃金が上昇をしたとしても市場水準よりも低くい状態が続いてしまう現象が生じる事がある様です。

この事から「前職の給与をこれからの給与設定の参考にしてはならない」となり、性別に関わらず適応されるSalary History Banに発展したと考えられます。ちなみに、Salary History Banを適応している州は現在9州あります。(州単位では無く、地方行政単位で適応させている所がほとんど)

このSalary History Banのコンセプトも、Ban the Box同様に「募集ポジションの職務内容に合致するか否かという部分を採用の軸にしましょう」という流れを汲んでいると考えられます。そうなると、募集ポジションの職務内容が明確でなければ、応募者が職務内容に合致するかどうかを測れないため、採用活動を行う際は募集ポジションの職務内容の精査が重要になります。


基本給に関する内的要因と外的要因は一つではない
冒頭に挙げた通り、最近は就労ビザの取得が困難であり、前回のニュースレターでも書かせていただいた通り、採用の際の人材市場が在米日系社会からアメリカ社会へと推移しています。今までは「隣の日系企業(類似業種の会社)がいくら出しているか」「今まではいくら貰っていたのか」という事を軸に、採用ポジションの給与を決めていれば良かった部分もあったのですが、アメリカの人材市場から採用する場合は事情が異なります。

まず、候補者は希望金額を伝えて来るため、採用側がアメリカの給与水準を知らなければ交渉もできませんし、そもそも先に挙げたSalary History Banによって現在貰っている給与を聞けないため、合意して貰える給与を見つけるのに苦労します。また「ウチはこれしか出せない」という事情や「日本の親会社と給与を比較せざるを得ない」という背景もあるので、採用したいレベルの人材を採用する事が非常に難しくなって来ているのではないでしょうか。

欲しいレベルの人材を採用するためには、給与の内的要因と外的要因を整理する事が重要となり、内的要因としては上述の通り自社都合を含めた採用希望金額、外的要因としてはアメリカの給与水準と候補者の希望金額があります。例えば、自社の希望給与が$100,000なのに対して市場給与が$150,000、または候補者の希望給与が$200,000だったらどうするのかという事に対して、様々な対応方法があるかと思いますが、そういった数字や現状を把握しない限りは手の施しようがありません。

数字や現状の把握がされていない場合は、自社の希望給与を軸に採用の可否を検討する事や、逆に候補者の希望にただ合わせるだけになってしまう事もあり、有効な採用とならない場合が考えられるので、採用をする際は対策をしっかりと練る事が不可欠な時代になって来たのではないでしょうか。



こういった事は「分かっていてもなかなか落ち着いて考えている時間が無い」、あるいは「準備をする予算が確保できない」場合も多いのかと思いますが、時代に合った採用を行える企業であり続ける様、採用に関する職務内容や給与の考え方などを整理する時間を設けられてみてはいかがでしょうか。(2018年5月)


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