組織を前進させる効果的な引継ぎとは

在米日系企業が抱える問題の一つとして、現職の駐在員が日本に帰任する際に行う「引継ぎ」が挙げられます。よく耳にするケースでは引継ぎを行うための時間が短い場合も多く、内容によっては後回しになってしまう事や引継ぎが行われない項目が出てくる事もある様です。

その場合、現行の制度が新しい赴任者の駐在期間で使用されない、あるいは正しく運用されないという事や、着手すべき問題や課題を一から探さなくてはならないといった事態が生じる事もあります。そこで今回は、効果的な引き継ぎを行うにはどの様なポイントがあるのかを考察してみました。


新規赴任者が直面する問題
引継ぎが不十分な場合、新規赴任者は様々な疑問や問題に直面しますが、まずは本来何が引き継がれるべきだったのかという事が確認できないという点が挙げられます。どの引継ぎ項目が漏れてしまっているのか、項目の内容が十分なのか、または何がどこにあり整理されているのかなどの疑問が生じる事もあります。

HRの引継ぎに関しては、現行の規則や制度が何故そうなっているのかが分からない場合があり、従業員から規則に関する質問を受けても答えられないケースや、昇給の際に何を参考にして良いか分からないといったケースも考えられます。そもそも、アメリカ型のビジネス文化やマネジメント方法が分からない事や、分からない時に誰に聞けば良いのかが分からないとい事もあり、業務に慣れるまでに時間がかかってしまう事も問題となっている組織もあります。


組織における知の継承
トップマネジメントが駐在員というタイプの組織では、駐在員の任期満了に伴って4-5年に一度の間隔でトップが変わるケースも珍しくありません。その際の引継ぎが不十分な場合、それまで運用していた規則や制度あるいは考え方が継続されない事もありますが、問題となるのは「トップが変わる度に制度や考え方も変わってしまう」という現象が起きる事です。

規則や制度が4-5年に一度変わってしまうと、従業員の今までの積み重ねが無駄になってしまう、あるいは取り組みを大幅に変えなくてはならないケースも考えられ、それが続くと従業員のモチベーション低下ひいてはマネジメントに対する不信感にも繋がりかねないため、継続性のあるブレのない仕組みであり続ける事が何よりも重要です。

更に、不十分な引継ぎによって今までの経験の累積が止まってしまったとすると、仕組みの継続性が無くなるだけではなく、それまでの取り組みが一度リセットされてしまう事も考えられます。駐在員は「環境に慣れるのに約1年かかり、2-3年で問題に気付き、解決方法を考えている頃に帰任の時期が来る」という様なフレーズは、皆さまも耳にされた事があるかもしれませんが、これは恐らく、引継ぎ時に組織の問題/課題や解決プランが継承されていなかったケースなどが考えられます。

つまりこの様な状況においては、トップマネジメントが変わらない所と比べ、組織としての前進が少なくなってしまう可能性があるという事です。


効果的な引継ぎ
トップマネジメントが変わらない組織の様な前進を続けるためには、知の継承がなされる必要があります。そのためには十分な引継ぎを行う事が重要で、現行の規則や制度および考え方に加え、それまでにあった問題やチャレンジ、着手しているプランや今後の取り組みの方向性などをしっかりと整理し引き継ぐ事が求められます。

また、新規赴任者がそれらを引き継ぎやすくするためには、①書面/制度を残す、②整理をする、③教育を行うという三つのポイントが挙げられます。「書面/制度を残す」事に関しては、評価制度・昇給スキーム・ジョブディスクリプションなど、形にできるものは制度や書面に落とし込む、「整理をする」事に関しては、現在運用している規則や制度をリストにまとめ、それらの書面やファイルの保管先を明らかにする、「教育を行う」事に関しては、例えばアメリカで働くための基礎的な研修を行う事や従業員ハンドブックの解説などを行う事によって効果的な引継ぎを実現させます。


効果的な引継ぎを行うと組織における知の継承がなされ、対組織/対従業員双方の期待値をコントロールしやすくなるため組織としての前進が継続されやすい事や、新規赴任者がより速い段階で自身のミッションに集中できる環境がもたらされるという大きなメリットがあります。

駐在員としてアメリカに赴任されている皆さまが帰任される際に効果的な引継ぎができる様、今から少しずつ準備されてみてはいかがでしょうか。(2018年2号)


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