死にたくなったら電話して 李龍徳 河出文庫

人間が作った型を忌み嫌い、人間を生まれつき愚かな者であると俯瞰する女、初美ちゃんが、心の中にそういった思いを秘めていた(たぶん)徳山サンをとことん引き摺り込む。ちょっとおもしろすぎてページを捲るのが止まりませんでした!たすけて

初対面なのに初美ちゃんははどうして徳山サンのことをみて狂ったように大爆笑したのか?彼女の生い立ちは?初美ちゃんの、何が本当で何が嘘なのか、意志が最後まで全然読み取れなかったです。
でも初美ちゃんはきっと、ずっと生きたくなかったんだと思います。過去に特段辛いことがあったとかではなさそうでした?(記述がないのでわからんけど)ただ、人間がいかなる存在であるか、その愚かさ、情けなさ、汚さ、それを冷笑しているような記述がたくさんありました。でもそういった人間の面が好きでもあったんやと思いました。単純な好きではなくて、おもしろがってるとか 嘲りとか そっちの方のおもしろいです!魔女狩りの話や、ここに書き出したくもないようなグロテスクであまりに悲惨な歴史を、嬉しそうに話したり、そういった本で本棚を埋めてたりしたからです。おもしろがっていなくてはそんなことはしないと思います。そして徳山サンも、そういった話を特段嫌がっていた様子ではないし、しまいには、彼自身も初美のように、そういった人間の汚い本質の話をバイト先の人間などに持ちかけて説教じみたことをするようになります。初美は「私たちは似てる」って徳山に言ってたけど、本質的にはほんとに似てたのかもしれない、どんどん初美化していって、普通の食事もできなくなり、げっそりになり、数少ない友達も全て失い、世の中の「普通」から切り離されていく徳山サンに何度も やめときなさい! って叫んでいました。特に大学受験を頑張った身からしたら入学金紛失はもうほんまに最悪で読んでるこっちが頭を抱えてしまいました 最悪すぎる きっと徳山さんが「普通」の道を歩もうとしていることに嫌悪した初美ちゃんが盗ったんだと思いますが、流石にひどいです。1番ひどいです。でもやめときなさい!って思っちゃう私も、「普通」にとらわれてるからこそこんなことを思ってしまうんでしょうか
初美ちゃんは寂しかったんだと思います 世の中に埋もれて普通の顔して生活したくない、むしろ切り離されていたいけど、自分と同じ本質を持ってるであろう徳山に最初執拗に絡んでたし、本棚に本並べたり、危ないビジネスサークルで愚かな人間の手本のような人間に会いに行って徳山さんに自らがどう考えてるのか悟らせたり、計画的に彼を自分側に貶めようとしてた気がしてなりません。心中というワードもあったけど、たったひとりで世の中と自分をすべて断ち切るのは、可能ではあるけどちょっと寂しかったようにおもいました。

個人的には奥付け前にある、星野智幸さんの解説がめちゃくちゃ納得できるというか、すごく好きでした 世の中が憎い、人類全員滅びてほしい それを実現する唯一の方法が「自死」、、、、なるほど!な!と思った。いままで自分の命を断つことを選んできた人は、(必ずしも)自分が死にたかったからそうしたわけではなくて、この憎き世の中、自分の置かれた状況、人類、歴史、この世界全部から、たださよならしたかったんだ!「死にたい」という言葉は、「死ぬことによって全てを終わらせたい」という意味にもとることができるんだ なんか新しい見方を身につけた気がします。

人類は醜く、汚いし、この世の中に作られた人間のあるべき型だって、穢らわしい。私も、ある意味悲観的で厭世的で、世の中を冷めた目で見ているタイプの人間やと思ってたけど 最後の形岡さんからの希望に満ち溢れた、前向きな、夢みがちなメールをみて、どうかそうであってくれ!!メールを目にしたこの2人の男女が助かってくれと願ってしまいました この2人にとっても「生き延びる」ことが幸せだとは限らないですよね それに対する初美ちゃんのメールの返答にも頷けますがヒドイ まだ私は楽観的で夢みがちな人間なんやろうなと気付かされたました めちゃくちゃ深くて誰かにおすすめしたくてたまらない小説でした。忘れた頃に絶対読み直したいけど入学金をなくすシーンが世界で1番ショッキングすぎてたぶん無理です 受験生の皆さま絶対に入学前の手続きでコケないで努力を無駄にしないでください


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