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読書室の窓辺から(5)

※この記事には、本のネタバレを含む内容が書き連ねてあります

こんにちは。富岡です。
こちらは、課題図書型読書会「対談読書室」の5回目「課題図書『プリズン・サークル』を語り合う (5)」の振り返り記事になります。

参加人数
・スピーカー :2名
・リスナー* :3名
*スピーカーによるディスカッション中は聴き手に徹し、読書会の全体の振り返り時に任意で発言可

読書室の風景

『プリズン・サークル』の課題範囲を読みながらの反響をご紹介していきます。

10 二つの椅子から見えたもの

  • 「事件について語る」の小見出しの翔の発言「殺した人は死ななきゃならない」が印象に残った。

    • 「殺した人は死ななきゃならない」この翔の葛藤を、初見の映画では消化し切れていなかった。翔はなんでそんなに葛藤しているんだろうと疑問だった。

    • 死刑の論理に囚われている翔。犯罪を犯した人に対する世間の目が厳しいことを再び思い知らされた。

  • 187ページの翔の発言「みんなの力を使って~感じています」で、犯罪をしたら終わりではないというのを、人生の選択肢の1つに加えられたことがよかったと思った

  • 188ページからの「死刑囚Aとの対話」

    • 死刑囚Aが、TCに対して疑問を持っている姿勢から肯定的な姿勢へ変わっていくのが印象的だった

    • 188ページ中ほど、死刑囚Aの家族の意向の話で、「名前を出したり・事件詳細を書かないで欲しい」ということが書かれている。死刑について、加害者やその家族に厳しい目を向けるわりには何も知らない私たち。そんな自分がショックだった。

    • 何も知らないし、加害者家族の日常を意識していない。22年11月11日梨葉法務大臣(当時)「(死刑の)判子を押すだけの地味な仕事」という発言、政治家ですらも、死刑囚Aの家族や翔の葛藤を知らない。

    • 変化に感銘を受けた。死刑囚も尊厳を持った一人の人間として気づかされた。「厳しい目を向けているわりには何も知らない」

    • 秋葉原の無差別殺傷事件の加害者家族。加害者の弟がマスコミから追われて自死。世間の大部分は、死刑囚のその後や、その家族のことを知らない。報道もあまりなされていない。

  • コンビニ強盗が近所であった。地元の人が犯人であった。裁判の判決は、「加害者の家族が面倒を見るので、加害者に失効猶予がつく」という新聞報道だった。加害者のケア、これは家族だけに押しつけていいのか?と思った。

    • プリズン・サークルのTCような第3の居場所は、加害者だけでなく加害者家族のケアにも必要なのではないか?

  • 参考:映画「誰も守ってくれない」

    • 佐藤浩市氏が主演の映画。2009年公開。

    • いわば、「娯楽」のように加害者家族を消費している私たち「市民」を痛感した映画を思い出した。

11 被害者と加害者のあいだ

  • 194ページ「自己憐憫」

    • 健太郎:「反省」をさせられることに被害者意識を持っている

    • 形からの「反省」からの脱却を求められる

    • 本を読んだだけでは、なぜ、加害者側が被害的な感情を抱くのかが疑問だった。しかし、映画で健太郎のロールプレイの場面で「修復的司法」的な場面を観て、「形だけからの反省からの脱却」を見ることができた気がした・

    • 加害者:自分のつらかった気持ちを吐露するのがわかる。(恐らく)自分の被害体験と向き合えないと自分自身と向き合うことができない。自己憐憫の期間があるからこそ、棒高跳びで高く跳ぶときの助走のように、自分の罪と向き合うことができるのだと思った。

  • 「修復的司法」

    • 山口氏「被害者と加害者が~同じ船に乗り合わせた者たち~」の「同じ船に乗り合わせた」という言葉がよいと思った

    • 町田氏「被害者=厳罰を望むひと」というイメージの固定化が進んでいる。「被害者の気持ちは厳罰を望む気持ちに違いない」と思っている人が多いのが現状。市民としても、生きづらいなと。

    • 「被害者:厳罰を望むひとである」というイメージの固定化は、結構怖い現象だと思った。しかしながら、自分自身も、特定の職業に固定化したイメージを抱いていることが多いことに気づいた経験がある。例えば、「性産業の女性」。保護する対象としか思っていなかった。しかしながら、当事者の中には、「自分は主体性を持って仕事をしている」と誇りを持って働いている女性もいる。

  • 「修復的司法」の性犯罪に関する事例。あまり聞いたことがない。性犯罪加害者には、まず、加害を認識する「カウンセリング」に結びつけられているイメージ。修復的司法の手法は、どちらかというと、傷害・強盗などで応用されているように感じる。性犯罪に対しての応用は難しいのだろうか?

    • 参考:小松原織香「当事者は嘘をつく」

  • 「修復的司法」、大学時代に選択必須科目だった。刑務所の外と内には壁がある。大学の理念が「壁を飛び越えていくのがソーシャルワーク」だった。授業を聞くだけでは、ソーシャルワーカーの大変そうなイメージしか感じることができなかった。この、学生時代の「大変そう」という先入観が「支援のなり手の無さ」「人手不足」につながっているのかも知れないと思った。

  • 本で読む前に、山口氏の活動を知っていた。加害者と被害者が対等に話し合えるのか、という驚きがあった。

  • 「償いとは何か」「少年対話会」被害者団体からの反対で、(参加者の満足度が高かったにも関わらず)休止になった。加害者優先という誤解はどこから来るのか。

    • 参考:平野啓一郎「死刑について」

      • 犯罪被害者がいかにケアされていないか。

      • 被害者・被害者遺族はこんなにもケアされていないのを知って驚いた。かといって、加害者側もケアされていない。

  • 208ページ「被害者団体からの反対」については、「加害者優先という誤解が生じている」と理解している。推測だが、反対派の被害者団体は「少年対話会」に参加していない団体なのでは。

    • 参考:「図書館戦争」シリーズ

      • 聴覚障害のある少女に、聴覚障害のある人が主人公の作品を貸す図書館司書の場面がある。当事者の少女は満足しているにも関わらず、第三者の「友人」たちが「それは差別だ!」と正義感から非難し、図書館司書が諮問会にかけられる場面がある。この「図書館戦争」のような、正義感からくる誤解で問題が生じるケースもあると思った。

    • 本当にその人と接してみたら、主義主張・思想はあわなくても、朗らかで良い人だなと感じることがあるなあという場面はある。推測に過ぎないが、少年対話会に対する被害者団体の反発も、実際に対話してみたら違ったものになっていたかも知れない。

今回の課題範囲を振り返って

スピーカー、リスナーから、様々な感想が寄せられました。
一部抜粋してご紹介します。

  • 自分がどれだけ相手(特定の属性の個人)に固定観念を持っているかを改めて発見した。

  • 特定の職業の個人の「誇り」。時間の流れや環境の変化で変わっていくのかな、と思っている。特定の職業の個人からの「やりがい搾取」の構造もある。

  • 読み手である自分が「幸せになっていいのかな」と実感する場面があった。

  • 「罪を憎んで人を憎まず」はできるのか?と、印象に残った。「加害者」は、罪を償ったら「人」として扱われなければならないはず。しかしながら、自分が仮に「被害者側」になったときに「罪を憎んで人を憎まず」はできるのか。自分だったら、事件の意味を知ろうとするだろうなと思った。本の中で触れられていた山口氏・町田氏の活動は、そういうところが原動力で活動しているのかな、と思った。

  • 10章より

    • 問題行動をとる人・刑務所に収容されている人。「褒める」「褒められる」のが苦手。だから「アファメーション」の時間があることが大切だし重要だと思った。

    • 「2つの椅子:エンプティ・チェア」。対話で葛藤を解決しようとする場面。対話で、というのが大事。185ページ、「白黒思考ではなくなった」という考えが、対話から導き出されたのは良かったと感じた。

  • 11章より

    • 自己憐憫(194ページ):裁判から繰り返し「反省」を求められる。正直、自分は「なんでこんなことをしなきゃならないのだろう?」と思っていたことを、正直に言葉にできた(騙していた自分の心と向き合えた)ことが大切だと思った。テキストに引用されている詩が印象的。

    • カナダの先住民の紛争解決法として行われていた手段が「修復的司法」のヒントになっている。古くて新しい手法。いいな、と思った。

    • 211ページの山口氏が加害者の横に座って伝えた言葉が、よかった。が、自分に同じようなことが起こったときに同じ言葉をかけられるか。「同じ船に乗り合わせた」は、おそらく、「加害者と被害者が同じ船に乗っている」という意味だと思った。言葉が秀逸だと思った。

  • この本を読むほどに、この本に書かれていることは「加害者」「被害者」など、「限られた人」の話ではないということがわかってきた。「個別化」と「一般化」の手法を用いて、この本のことを消化していきたい。

  • 自分自身が、「自分の価値観が変わってくる・変わっていくこと」を、自分の中で認めるのが大事なのかなと思った。

  • 山口氏の、加害少年にかけた言葉。自分だったらできるか?自分も該当箇所を読んだときに、加害者にこういうアプローチをとれるか悩んだ。今の自分では同じ行動をとれるかはわからない。しかし、考えつづけていきたい。


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