創業前後に悩む社会保険のこと1
こんにちは!社会保険労務士の小山貴子です。
私は毎週(水)に東京都中小企業振興公社という団体が運営している「創業ステーション」で創業時の人事の専門相談にのって4年が経ちます。多くの相談者のお話を聞かせていただいているのですが、半数の方の相談は社会保険に関すること(他の内容は採用や組織の作り方や労務相談等々多岐にわたります)。
それぞれの方が置かれたご状況によって回答が異なる部分もあるのですが、社会保険の仕組みが「こんな感じになっている」ということを、これから5回にわたり、具体的な人を例にご説明させていただこうと思います。
今回はこんな方!
「Aさん:会社を辞めることを決めている。その後はまず個人事業主になる予定」
の例を考えてみましょう!
●退職日がいつかはもうお決まりですか?
そこがあやふやな方はまず退職日を会社や上司と決めてくださいね。飛ぶ鳥跡を濁さず・・・丁寧な引継ぎを心がけて辞めたいですよね。独立されるとしても、いつかまた今所属している会社やお客様とまた一緒にお仕事するかもしれません。そんな丁寧なやり取りが独立してからの人脈をより良いものにしていきます。「あの人に任せよう!」と思っていただけるようなお付き合いをこの先もずっと・・・
退職日が決まったらその翌日に社会保険は失効することになります。その先をどうするかは退職前に考えておきましょう!
●独立してからの社会保険はどの選択をしますか?
社会保険は3つの選択肢があります。
A.それまで加入していた健康保険の任意継続被保険者制度(以下、任継(にんけい))を利用
B.国民健康保険に加入
C.家族の不要に入る
まず一つ目の選択肢A。今、所属している会社が加入している「協会けんぽ(全国健康保険協会)」や「健康保険組合」にそのまま所属する。
任継する時の注意点は4つ。1.退職した20日以内に手続きをしないと手続きができなくなります。2.納める保険料はこれまでの倍になります。これまでは半額会社が負担してくれていました。が、退職することでそれはなくなります。3.保険証は一度返して、新しいものをもらうことになりますので、手元に保険証がないという期間ができてしまいます。4.2年間しか加入できません(ただし、退職前の被保険者期間が2か月以上あることが前提)。
健康保険組合の所属であれば、その組合によって独自の加入条件をお持ちの場合がありますので、組合に詳細を確認されてみてください。
二つ目の選択肢B。市(区町村)役所で国民健康保険の手続きをする。
国民健康保険の保険料は、前年の所得、世帯の資産、家族の人数などを基にして決定されますが、算出方法は自治体によって異なっています。所得が同じでも住んでいる市区町村によって支払う保険料が異なってきまし、納付の方法も自治体ごとに異なるので、詳細は住んでいる市区町村の国民健康保険窓口に問い合わせましょう。手続きは退職日の翌日から原則として14日以内に行うことになっていますが、もし遅れても手続きすることは可能です。ただし、保険料は退職日の翌日までさかのぼって支払わなければなりません。
三つ目の選択肢C。家族どなたかの扶養に入るという方法があります。扶養に入るには以下の2つの条件があります。
1. 被扶養者の範囲
大きく「被保険者との同居が必要ない者」と「被保険者との同居が必要ある者」の2種類があります。必要ない者の扶養条件は「配偶者」「子、孫及び兄弟姉妹」「直系尊属」です。
「配偶者」には、届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者も含まれます。直系尊属とは父母や祖父母など自分よりも上の世代のうち、自分と直接つながっている系統の親族のことです。そのため間接的につながっている叔父や叔母、配偶者の父母・祖父母は直系尊属とは呼ばず、傍系尊属と呼ばれます。ただし養父及び養母は直系尊属とみなされます。対して被保険者との同居が必要ある者は、配偶者・子、孫及び弟妹・直系尊属以外の「3親等以内の親族」と「内縁関係の配偶者の父母及び子」とされています。
2.収入要件:
社会保険の被扶養者の扶養条件のうち、収入に関する要件は「年間収入130万円未満」と定められています。ただし60歳以上または障害者の場合は年間収入180万円未満まで認められます。しかし収入要件はこれだけではありません。全国健康保険協会では被扶養者の定義に「主として被保険者に生計を維持されている人」「被保険者の収入により生計を維持されている」ことを挙げています。
つまり、130万円または180万円未満の年間収入であっても、その収入を中心に生計を維持している場合は被扶養者としては認められないのです。誰の収入を中心に生計を維持しているかどうかは、次の基準で判断されます。
・同居している場合:収入が被保険者本人の収入の1/2未満であること。
・同居していない場合:収入が被保険者本人からの仕送りより少ないこと。
また、ここでいう「年間収入」とは、「その年に得た収入」のことではありません。これは被扶養者に該当する時点および認定を受けた日以降の年間見込収入金額を指します。
個人で置かれた環境で「選択できるもの、できないもの」もありますので、慎重に対応することが求められます。
次回は「Bさん:会社に従業員として所属しながら、自分の会社を立ち上げようとしている」、そんな方を例に周辺情報をお伝えしていきます。
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