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あさひがのぼるまえに。第五章「あさひがのぼるまえに」

真夏の陽に思うことは、自分なんてどうでもいいんじゃないかということだ。最もな理由なんてないまま生きている僕たちだから、どんな理由であれ人生を投げ出してはいけないと考えている。それでも未来を夢見て逞しく生きる姿を人は美しいと言う。人生を楽しめよと世間は言うが、何も支援なんてしてくれないどころか、挙句の果てには生きがいすらも奪ってしまうようなことになりかねないと、考えている。

そんな暇もないぐらい、忙しい日々、ではないことは確かだが、俺には生きる理由が必要な気がしてならないんだ。

あれから半年が経った。もっともっと人生が進んでいるかと思ったが、特段何の変化もないまま月日が過ぎた。みのりのSNSのフォロワーは裕に一万人を超えて、企業からの案件も順調に獲得している。俺はというと、ただただ会社に行っているだけだ。城戸先輩からも連絡が途絶え、もう諦められたのか何なのかわからないまま、何も起こらない月日が俺のことを襲っている。変わらない日常がこんなにも辛いなんて思ってもいなかった。強いて言えば、みのりと無事に籍を入れて、新婚生活を送っていることぐらいが幸せの絶頂とでも。でも、そんな俺にも幸せがあるとしたら、なんなのだろうか。もう人生は分からないぐらいには迷いつくしている。

「今日も特段何の変哲もない日だな~。」

「そうだな。いつも通りの一日。」

「なんかつまらないよなあ。」

「四ノ宮がそんなこと言うなんて珍しいな。いつも人生楽しそうなのに。」

「俺だって悩む時ぐらいあるさ。もっともっと学生と効率的に会うにはどうしたらいいかを考えるのに忙しいんだから。」

「相変わらずすぎて、何の驚きもないわ。」

「そいえばみのりさんは、SNS順調なん?」

「だいぶ順調、フォロワーも一万人超えたらしいし、創作料理とか上げだしてから違う媒体にも引っ張りだこ。なんか羨ましいよなあ。」

「結婚式とか上げないの?」

「まだその話は出てないけど、たぶん上げないかなあ。プロポーズも、成り行きって感じだったし。」

「パッとしねえなあ相変わらず石上は。」

「それが俺の人生なんじゃねえのかな、何の変哲もない毎日がこうして続いていくだけ。それでいいんだと自分で自分を許して、もうはや一年が経とうとしてる。社会人ってこういうもんなのかなって思うとぞっとするけど、それも慣れてしまうぐらいには精神はすり減ってるよ。でもなんか悟ってる気分だわ。」

「なんか、変わっちまったな、石上。」

「どう変わった?」

「前は世間に対して牙をむいていたけど、その牙を出すことを諦めてるっつーか。もっともっと自分の人生について考えている石上はどこに行ったんだ。」

「半年で人生が変わらなかったんだ。もう俺には何の希望もない。ただ平凡に転職して、それでいいんだから。」

「もう、2月かあ。」

「早いなあ、時間が経つのは。」

2月。普通ならやれ新卒採用だとかなんとか言っている時期だが、アワーサイドは特段何も動きはない。あと2年で閉まってしまうこの会社に、新卒なんて来ないのは当たり前だ。何の変哲もない、社員のやる気もだんだんとなくなっているのが肌感覚で分かる。朝日なんて言うのは、心の僕のことを何も気にしちゃいない。

意味のない会話を重ねて、それが全てだと自負して、自分が誇れるなんて思ってもいないまま、こうして彷徨って人生が終わっていくんだろうな。いつもよりも少し笑顔で生きていけるような気もしていたが、それすらもない毎日だから、人に笑われても良いと思っているんだ。生きていく毎日で、うつむいて傷ついている自分にも慣れた。仮面で守っている、ただ恥ずかしくてごめんなさいという気力すらもないまま、こうして人生が終わっていくんだろうな。
 


 
 
ただひたすらに生きていた日常、思い出して笑えることなんて何もない。誇らしいきっかけなんて何もない。彷徨っているだけで何も生まれない。いっそのこと人生なんて生きていないほうがいいんじゃないかと思っている。ずっとこうしてこのまま40年ぐらいが経って、定年を迎えて死んでいくのか。
 

 
 
 
 
なんか、そう考えたらやっぱり人生を諦めたくない気がしてきた。これから40年、このままずっと自分の人生にふたをして生きていくことなんて、やっぱりできない。諦めたくない。諦めたくない。諦めたくない。もっともっと人生を充実させたい。もっともっと世界に貢献できる人間になりたい。このまま終わる人生なんて嫌だ。痛みを押し殺して、届かない想いを募ることなんて嫌なんだ。この型に舞い降りて微笑んでいる自分に鞭を打ってでも、目を閉じて願いを叶えるんだ。

人生が果てしない道だとして、自分がやりたくないことに時間を割くことは果たして正解なんだろうか。どれだけ手を伸ばしても夢には届かない、想いが抱いている権化を背負って、永遠へと続いていく基準を作っていくのが人生なんだろうか。いつまでも忘れようとしないで、続く道の中で輝いていることすらも気づかないまま、僕らはこうして何の変哲もない日常を許容していくんだろうか。
 

 
いとしさが溢れて、優しさを溢れさせて自分ができないことをできるようにするために何もかも忘れてしまうんだろうか。自分ができないことをやってのけるほど、人生は甘くない。自分が努力すればする分だけ成長できるなんて甘い話はないんだ。自分次第の人生だからこそ生きる意味がある。俺はそう思ってきた。

今まで自分の人生の主導権を握ったことがなかった。このまま人生が続いていくと思うと不安というか、生きている意味すらないんじゃないかと思った。そう思ったら、居てもたってもいられなくなってくるんだ。隣り合う運命が重なって、目には見えない力をここで発揮させてくれる日が、突然現れるのが人生なんだ。今この瞬間に踏み出さなかったら、いつまでも踏み出せないままだ。きっかけなんていらないんだ。きっかけは自分で作るんだ。
 
 

「四ノ宮。」

「ん?」

「俺、今日早退するわ。」

「おお、どうしたいきなり。」

「なんか、人生が動き出す気がしてる。ちょっと家でみのりと話すわ。」

「おっけい、体調悪そうな顔して上にあがれよ。」

「あっはは、おっけー。」

降りかかる悲しみをすべて預けるように、会社を後にした。もうここには来ないと決意するように、心が動いた瞬間だった。看板が永遠に叶わないと思っている愛おしい日々を蔑んでいる暇なんてないんだ。もっともっと愛を重んじて、もっともっと世間に愛想を尽かして生きるのが俺なんだ。ここに一番近くにいると言ってくれたみのりと一緒に何かをやりたい。そう思って、会社を出てきた。今まで我慢してきたことが晴れていくような、そんな感覚だった。

このままでいいのかと、40年という長い月日を意識した瞬間。強烈な拒否反応が出てきた。今日の後悔も流してきたからこそ、出逢ったことがない旅をつづけるんだ。向かい風と知っていながらそれでも進む理由があるんだ。身につけたもの、抱え込んだものを手放したときにはじまる何か、僕らのやり方で、もっともっと前に人生を進めていける気がする。ずっとずっと我慢していたけどもう限界だ。逃げ出せたはずなのに同じ場所なんてもうごめんだ。何も言わないで世間に迎合している自分がやっぱり許せない。いつかそっと言いかけた夢の続きを、今ここで。
 

「ただいま。」

「おかえり~。なになに、めっちゃ早いね。」

「早退してきた。」

「あら、体調?」

「いや、やっぱり俺、社会人無理だわ。」

いつかの愛が度重なって自分たちのことを呼んでいる。もう大体でいいとかそういう話ではないが、人生が熱くなる気がしているんだ。自分だけがつらいんじゃない。俺だって頑張ってきたんだ。もっともっと世間のために愛を表現してもいいじゃないか。言葉すら浮かばない人生なら、涙だってここで枯らす勢いで、人生を歩んでいくことが正なんだ。最低だったっていつか振り返ることになっても、今のこの不快感が運命を変えるきっかけでいいんだ。今この瞬間に変えることができなかったら、もう一生俺は変われない気がしている。
 
 
 
 
 
うまく言えたらいいけど、この運命は言葉にはできない。息が続いているこの瞬間にも、世界は動いているんだ。もっともっと自分ができることをしていかないと、世界は平和にならないんだ。自分ができることが何かを考えて、自分らしく生きることが今この世界にできる最大の貢献なんだ。ときめいて悩んだり、もっともっと強く生きていけると思うんだ。俺はもう戻らないって決めたんだ。嘘だらけの毎日なんて、ごめんなんだ。いずれ別々に歩いていく世界があったとしても、雲をつかむような毎日なんてもうごめんなんだ。止まらない感情で運命をかき鳴らす。

「あらあら、どしたの急に。」

感情が高ぶっているときは選択をしないほうがいいと人は言うが、それが自分には理解できない。自分がやりたいならすぐにやればいいし、心が動くことなんて人生でそんなに多く経験しないんだ。半年後の人生なんてわからないんだから、能動的に人生を決めて、何が悪いと思ってしまう。

「みのりと一緒に、何かやりたい。俺は、世間に迎合する人間じゃない。もっともっと俺たちのやり方で、世界を変えていける気がするんだ。」

「なになに、急に何。」

「急かもしれないけど、俺はずっとずっと葛藤してきた。ずっとずっと迷い続けてきた。もう限界だと言うところまで悩みつくした。もう限界なんだ。いっそのこと人生を投げ出してしまおうかっていうところまで悩んだ。ここまで悩んでもやっぱり安定を求めるならそれでいいと思った。でも、でも、これから40年間、何の変哲もない日常がこうして続くことなんて嫌だ。ずっと考えていたことのタイミングが、たまたま今日だったってだけだ。」

「なるほどね。で、何するの?」

「分からん。」

「あっはは、なにそれ。会社は辞めるの?」

「やめる。」

人生の舵があるとしたら、それは面舵だろうか。帰りの便がない飛行機にわざわざ乗る人間なんているのかわからないが、俺は今までさんざん悩んできた。もっともっと自分が能動的な人生を歩みたいと思ってしまったがために、今まで大きな歪みが心に生まれていたんだ。本当の心のゼロ地点なんて分からないが、自分ではできない何か運命的なものが動いている気がした。
 
 
 

「分かった。じゃあさ、一緒におにぎり屋さんでも開かない?」

「え?」

「いいでしょ、おにぎり屋さん、平和な感じで。」
 
 
 
 
 

人生は平凡か。はたまた破天荒な催しか。そのどちらでもないとすれば、一体何なんだろうか。いつでも自分のことを蔑むことができる世の中に対して、もっともっと自分のことを分かったふりできればいいと思っているんだ。悩んでいる暇なんて、最初っから無かったんだ。運命を動かすきっかけはいつだって自分だ。自分次第で何事も決まるんだ。不確かなまま始まる今日は変わらない、いつも通りだ。時が流れても分からないことが多いこの世界で、まだ未完成でもいいから、前に進むんだ。君が感じている日々がどんなものかなんて僕には知らない。くだらないってため息を数えている暇があったら、前に進むんだ。前に進んでいくことが正なんだ。上を向いて、運身を切り開くんだ。

くだらないってため息を数えて、世間なんて無視して、それでも前に進むんだ。あなたは独りじゃない。あなたは独りじゃない。
窓から見える桜の花が、なんだか輝いている気がした。




あさひがのぼるまえに。 完

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