「判断」について

フットボールでの「判断」について、考えてみました。


◎「判断」とは何か

フットボールにおける「判断」とは、状況に応じてプレーを選択することです。

フットボールでは、チームとしてもプレーヤー個人としても、ピッチ内で様々な「判断」をしていくことが求められ、この「判断」が勝負を分ける重要な要素になります。

「判断」は常に変化する状況に対して下すものです。
フットボールには、似たような状況はあっても同じ状況はありません。
例えば、同じような位置でシュートを打つときでも、相手DFとGKのポジションや姿勢や能力、ピッチコンディションや天候などの状況でどこにシュートを打つかの「判断」は変わってきます。
逆に言えば、変わってこなければそれは「判断」できていないということです。


◎「判断」のメカニズムと質の高い「判断」の必要条件

「判断」は、
①認知(状況分析)→②判断→③実行(プレー)
という順序で行われます。
①はインプット、③はアウトプットとも言えるでしょう。

「判断」の質は、②「判断」そのものだけでなく、①認知と③実行によっても左右されます。
つまり、質の高い「判断」を行うためには、前提としてその前後の
①状況を把握していること
③実行に移すことのできるプレーの選択肢を持っていること
が必要条件になります。

①で把握するべき状況とは、現在はもちろん、これから起こることの予測も含みます。
状況がきちんと把握できているかどうかは、情報の量と正確さによって左右されます。
情報が少なかったり不正確だと「判断」を誤る確率が高くなります。
自分の背後を確認できていない状態でボールを受けてしまったら、ターンしたときに何が起きるかを予測することはできないので、それでもターンをするというのは「判断」というよりギャンブルになります。
状況は視野を広げること、相手と味方のプレーを予測することでより的確に把握できるようになります。
視野は、技術的な側面もあり、トレーニングが必要です。
予測は、センスもありますが、トライアンドエラーを繰り返していくこと、振り返り検証することでも精度を上げることができ、味方とはコミュニケーションをとってそれぞれのプレーの意図を擦り合わせておくことも大切です。

③は言い換えればプレーの幅や引き出しの多さです。
選択肢がないと「判断」を下そうにもできません。
相手のロングボールがフリーの自分に飛んできたとき、浮き球をトラップすることができなければ、拾って繋ぐという「判断」をすることは不可能で、クリアするしかないということになります。
この選択肢は、戦術理解または技術、イマジネーションによって獲得されます。
オフザボールのときに求められるのが戦術理解、オンザボールの時は技術になります。
イマジネーションは天性または幼少期からの積み重ねによるところが大きく、トレーニングによる向上は難しいですが、戦術理解と技術はトレーニングによって向上します。
選択肢が多くあればいい「判断」ができる可能性は高まります。
イマジネーションもあればそれに越したことはありませんが必須というわけではなく、戦術理解と技術をよくトレーニングして向上しておくことが大切です。

◎「判断」自体の質

ここで、③の選択肢から選ぶわけですから、②「判断」は、その行為にフォーカスすれば選択であると言えます。
しかし、選択は「判断」の本質ではありません。
ただ選ぶのではなく、①の状況を踏まえてどう選ぶのかが重要で、それゆえ「判断」という言葉が使われます。

必要条件である①と③が充分なレベルにあった上で、②の「判断」自体にも、質を左右する要素があります。

「判断」自体の質を左右する要素は、集中力と経験またはセンスです。
集中力は不可欠ですが、経験とセンスはどちらかだけでも成り立ちます。
天才のセンスがなくても、トレーニングによって経験を積むことで「判断」の質は上げられます。


◎「判断」のスピード

また、プレーが連続している中での「判断」にはスピードが求められます。
当然、レベルが高くなればなるほどスピードも上がり、①認知→②判断→③実行のプロセスに許される時間は短くなります。

③は実際に身体を動かすことに物理的な限界があります。

これに対して①から②はいわゆる頭の回転の問題で、ほぼゼロに近い瞬間的な領域まで早くなるので、トップレベルになるほど差のつく部分です。

人体の構造上、論理的思考には時間がかかるため、論理的に考えようとすると「判断」を下すのが遅れてしまいます。
これを大幅に短縮する方法が感覚的思考です。
感覚的思考は瞬時に答えを導くことができます。
言い換えれば直感的に分かるようになります。

分かりやすい例としては、フラッシュ暗算があります。
計算ドリルで筆算をいくら練習してもフラッシュ暗算のスピードには到達できません。
フラッシュ暗算をできる人は、頭の中でそろばんをイメージし、それを瞬時に動かすように暗算を行うといいます。
これがまさに感覚的思考回路です。

フットボールプレーヤーでもトップレベルになるとこの感覚的思考をすることで瞬時に「判断」をしているようです。
実際、元バルサのシャビのプレー中の脳波を測定したところ、比較対象の大学生の脳は論理的思考を行う部分が活性化していたのに対し、シャビは絵を描く時のように感覚的な部分が活性化していたという研究結果もあります。

素人にも直感でプレーしろということではありません。
考えなしに当てずっぽうでは「判断」ではありません。
きちんと考え「判断」してください。
その上でトレーニングを積み、感覚的に瞬時に「判断」ができるレベルを目指そうという話です。


◎パターン化の罠

戦術を共有するときはパターン化するのが一般的ですが、このパターン化は「判断」の妨げになる可能性があり注意が必要です。

「Xの状況では、Yの考え方で判断し、Zのプレーをする。」
(①認知X→②判断Y→③実行Z)
というときに、X→Zという回路(パターン)を作っておけば、反応スピードを上げることができます。

これが試験勉強なら、Yは覚えなくてOK、X→Zだけ覚えておきましょうとなりますが、フットボールでそれはNGです。
なぜならXという状況が変化するので、厳密に定義することが難しく、Yという考え方を押さえていないと異なる状況に対して「判断」が下せないためです。
言い方を変えれば、X→Zの丸暗記では「判断」にはならないのです。

例えば、「相手がこういう陣形になったら、高い位置でボールを奪いたいので、縦を切って中に誘い出して奪おう」という話をチームでしていたとします。
しかし、想定と同じ陣形になったとしても、相手は中央に繋ぐつもりがなくロングボールしか狙っていないとか、相手の中央の選手の能力が飛び抜けていて狙いどおりに誘い出しても奪えずに剥がされてしまうといった状況では、自由に蹴らせないようにプレッシャーをかけつつDFラインを下げたり、中ではなく縦に誘ってサンドイッチを狙うといった「判断」が求められます。

パターン化して整理することが悪いのではありません。
パターン化した対応のモデルはあくまで考え方の例に過ぎないことを理解しておく必要があるということです。
なので、パターン化するときには、その考え方を押さえておくことが非常に重要です。


◎「判断」こそがフットボールだ

競技によっては、コーチや指示する役割のプレーヤーが絶対で、その指示通りにできるかどうかが勝負ということもありますが、フットボールは違います。
他のプレーヤーやベンチからの指示も①のインプットの1つでしかありません。
ディフェンス時にコースを限定しろと言う指示を受けても、相手のコントロールミスなどでボールを奪えると考えたなら、取りに行く「判断」をするべきでしょう。
仮に失敗した場合はその責任を問われますが、成功したときの称賛も自分のものです。
自分自身で「判断」して結果を引き受けることが重要です。

フットボールにおいて、「判断」に正解はないとよく言われます。

その状況からどう考えてもベターだと思われる「判断」が失敗し、どう考えてもおかしく、もはや「判断」とは言えないギャンブルが成功し、結果論で評価されることもあるでしょう。

「判断」はとても難しいものです。
しかし、それこそがフットボールではないでしょうか。

プレーしたり観戦したゲームの後で、最高の余韻に浸るのも、悔しさを噛みしめるのも、ああでもないこうでもないと仲間と談義することも全てひっくるめたものが我々の愛するフットボールです。
そのゲームの結果は、いくつもの「判断」の結果です。

フットボールは番狂わせの起こりやすい競技だといわれますが、ギャンブルではなく「判断」の結果であるからこそ、ジャイアントキリングも単なる幸運ではなく必然として評価されます。

自分で下した「判断」の結果だからこそ、結果を自分のものとして受け入れることができます。
喜びも自分のものですし、悔しさも自分のものです。

そして、「判断」であるからこそ、改善することができます。

勝ったときには、この興奮をまた次もと思い、負けたときには悔しいながらも今度こそはと思えることが、フットボールの魅力であり、それが成り立つのは人の「判断」が結果に色濃く反映されるからではないかと思います。

このように、人が「判断」してプレーすることこそが、フットボールの本質だと私は考えています。

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