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全裸監督 第10章 要約

第10章 370年(村西とおるが米国司法当局から求刑された懲役年数)

「SMぽいの好き」で富と名声を手に入れた村西とおるは、いきなり奈落の底に突き落とされる。1986年12月、新作とカレンダー写真撮影のためハワイにロケ中、旅券法違反容疑とマン・アクト法違反容疑(売春や不道徳な目的で女性の州間・国際間の移送を禁じた法律。背景に黒人男性と白人女性の接触を禁止したい白人の差別的意向があったようだ)で撮影隊16名全員が逮捕される。黒木香は最初同行していたが、仕事の都合で先に帰国していて逮捕を免れている。
当時、山口組の幹部がFBIのおとり捜査で逮捕されたり(露骨なおとり捜査だったため裁判では無罪)、日本企業がハワイの主要なホテルを次々と買収していて、侵略されているというイメージで反日感情が盛り上がっていたらしく、その格好の餌食になったともいえる。

保釈の身元引受人は天台宗ハワイ別院(こういう時、日本領事館は頼りにならないらしい)。撮影隊15人のハワイ抑留中のエピソードはほのぼのとしたものだが、帰国申請書を何度も出して村西とおる以外は4月に帰国を果たす。特にAV女優の沙羅樹は別院住職の荒了寛から「絵心がある」と仏画を誉められたりして人間的に成長している。
村西とおるの法廷闘争は検察の異例の引き延ばし戦術もあり、およそ半年に及ぶ。毎日、荒了寛僧侶と座禅を組み、腕立て伏せ千回、腹筋五百回、十㌔マラソンを日課にし、酒・煙草を辞めた。支援者の荒了寛の証言によると、当時の検察側は山口組のおとり捜査の失敗で評価を落とし、名誉挽回のために選んだターゲットが村西とおる。移民局・連邦税関・FBI・ホノルル警察がタッグを組んで村西とおるを罠にはめた事案だとのことで説得力がある。

ただ、有罪・長期刑が免れないと思われたこの裁判、有罪に持ち込むことが無理だと判断したアメリカ司法当局が司法取引を持ち出し、罰金刑で解決する。村西とおるも徹底的に法廷闘争をするよりは費用も掛からないと判断して罰金は2,200万円。弁護団への費用と滞在費を含めて、クリスタル映像が支払った額は1億円ちかくにのぼった(日米の裁判の違い。日本の弁護士は1.5万人しかいないが、米国は60万人。弁護士ブローカーの国/アメリカでは優秀な弁護士が無罪を勝ちとることがザラにあり、検察には司法取引で引き分けにする交渉術がある。アメリカでは犯罪の8割が司法取引で済み、裁判まで行くのは2割。そうしないと公判が多くて消化できない現実)。

ハワイから凱旋?した村西とおるは時の人。最大のトリックスター。あの黒木香を発掘し育てた男。帰国して5ヵ月後、自叙伝「ナイスですね」を出版。休む間もなく撮影・取材の日々。月20本の乱作、狂乱のスケジュール。昭和のモーレツ社員を髣髴とさせる仕事人間。
その他の人物の動向。著者の本橋信宏は新作AVの批評をするようになる。奥出哲雄(映画「限りなく透明に近いブルー」の助監督、裏メディア系批評の重鎮、AV制作メーカー社長となるも売行きが伸びず倒産、借金返済のため村西とおるから無担保で1億借りたこともある)。クリスタル映像の監督・男優/八木裕二の逸話(AV男優/ターザン八木)など。

閑話休題。1987年のAV業界の勢力地図。黒木香で売上を急激に伸ばしたクリスタル映像の対抗馬は美少女路線の宇宙企画。ハード路線VSソフト路線。村西とおると山崎紀雄はAV業界ではライバル関係。宇宙企画は出版社の英知出版を別に持っていて、「べっぴん」「すっぴん」「デラべっぴん」「ビデオボーイ」などの月刊誌で総発行部数は100万部近くあって膨大な利益を上げていた。莫大な収入を得た山崎紀雄は、意外なことにルオーの世界的コレクターでもあった。2人の共通点は「エロスは落差」という考え方。

1988年、バブル絶頂期。村西とおるも社屋に寝泊まりしながら、一日も休みなく働き続ける。人間の限界を超えた働き方についていけない助監督(社員)たちが相次ぎ逃げ出す状況。村西曰く「一日36時間でも足りないのよ。寝なくていい薬があるんだったらその薬欲しい」。

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