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ヤギさん郵便No.45「12月3日」



強い人になりたかった。悲しい、淋しい出来事があるたびに、心がえぐられて辛い思いをするたびに打たれ強い人になりたかった。

だから鎧を着た。悲しい、淋しい思いをするたびに、心えぐられて辛い思いをするたびに鎧を着て、自分に言い聞かした。

もっと頑張れ。
もっともっと頑張れ。
もっともっともっと頑張れ。
もっともっともっともっと頑張れ。

その鎧を何千枚と着てから気が付いた。
辛い事、悲しい事、淋しい事はわかるのに、その反対側がわからない。自分が何が好きで、何が嫌いで、何に対して感動するのか、全くわからない。

強くなりたくて鎧を着ていたのに、分厚い鎧の下に自分の心も一緒に閉じ込めていた。

本来の私は弱い。泣き虫だ。

昔の私は「ネガティブな感情」というものを嫌っていた。特に怒りの感情を毛嫌いしていた。怒りが込み上げてくると必死で蓋をして海深く光が届かない場所に隠していた。

でも、子どもが生まれると怒りに蓋が出来なくなった。次から次へと常識を覆すことをやってのける。こっちの許容範囲なんて飛び越えて全力で要求してくる。

でも、そうやって体当たりしてくれる息子のおかげで、怒りの蓋を一つ、また一つ無理矢理にでもこじ開けてくれた。

今まで蓋をしていた感情が開くと苦しい。とても苦しい。でもそれでいい。

今までは鎧を着て強くなると思っていたけど、鎧の下はあの頃と同じ何も変わってない。弱いまま。でもそれでいい。

12月3日はお父さんの誕生日。
この日が近づくと淋しくなる。直接「おめでとう」と言いたいのに、言えない。今までお父さんに会えてない30年間でお父さんに話したい話は山ほどあるのに、それは叶えられない。

涙が出る。
でもそれでいい。

お父さんのことが好きだから、会いたくなって悲しい。そして、この悲しいを消そうとするとお父さんに会いたい、大好きの気持ちも一緒に消えてしまう。だから悲しくていい。淋しくていい。会いたくてたまらなくていい。それでいい。そのままでいい。











マガジン「ヤギさん郵便」をはじめました。エッセイのような手紙のような交換日記です。Yayoiさんの文章はこちらから読めます。⇩⇩⇩






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