助手はキューピッド

金色のコルダ3・如月響也×支倉仁亜の小説です。

俺は今、ヤツと対峙しているーー…。

始まりはなんてことのない、いつものように練習を終えて俺が自分の部屋に入ったまでのこと。
「あー今日も疲れたー。さーて、ちょっとくつろ…うわあ!?」
夕食まで休もうとベッドに腰かけようとして…そいつに気がついた。
「にゃー」
ベッドの上には、ちょこんと座った黒猫がいた。…待て待て待て、ここ俺の部屋だよな?周りを一応確認したぜ。間違いない…持ち物を見てもどう考えても俺の部屋だ!だが、一つ…どう考えても俺の所有じゃないものがある…いや、いる!それはーー
「にゃー?」
「おまえだ、黒猫!!」
「にゃーにゃー」
俺の気を知ってか知らずか…いや、知らねぇよな。のんきに鳴いてやがる。ため息をついて俺はとりあえずそいつを抱き上げた。
「おまえなぁ〜…なーんで俺の部屋にいるんだよ??てか!鍵かけてたのにどうやって入ったんだ!?」
そうだ、寮のみんなも部屋を出る時は鍵をかけているはずだ!なのに、なんでおまえはここにいるんだよ〜!?…わけ分かんねぇよ。ん!?もしかして俺がかけ忘れたのか??いや、ねぇだろ…ないと信じたい。
「にゃー?にゃーにゃー」
「…ん?なんだよ、しきりに鳴いて…もしかして心配してくれてんのか?」
「にゃーにゃーにゃー」
「おまえ…」
まさかマジでその意図だったのか!?それが伝わって嬉しいのか、黒猫が笑った…ように見えた。その悪気のない笑顔に思わず俺の頬も緩む。
「ったく、つーかおまえのことで混乱してるんだけどな!」
「にゃ?」
まっすぐに俺を見ながら首を傾げる黒猫。この猫、なんつーか凛としてるんだよなぁ〜…美人、美猫?ってヤツか??…!うわッ誰かを彷彿とさせるからやめろ!〜〜〜俺は自然にその黒猫を抱きしめた。な、なんでかはよく分からねぇよ…!!
「ーー俺、犬派っつーか…犬の方が好きだったんだけどな…ったく、どうかしてるぜ」
「…ほぅ?好みが変わったのか」
黒猫を撫でながら自嘲気味に呟いた俺の背後から声をかけられた。反射的に振り返る。
「!は、支倉!?おまっ、どうしてここに??い、いつからいたんだ!?」
そこにはいつのまにかスラリとした、まるで猫のような女子生徒が立っていた。いつものように不敵な笑みを浮かべている。
「たった今だが?部屋の扉が入ってくれと言わんばかりに、開いていたから失礼したまでのことだ」
「か、勝手に失礼するんじゃねぇよ!!」
「そう怒るな。ーー私の助手を探していたんだ。大目に見てくれたまえよ。…おや、まさかこんなところにいたとはね」
悪びれる様子もなく、淡々と喋っていた支倉が俺の腕の中にいる黒猫に気がついて微笑む。支倉の存在を認識した黒猫も、にゃーにゃーと前足を伸ばして鳴き始めた。俺は黒猫を支倉に渡してやった。支倉が両腕を広げて受け取ると、黒猫はすっぽりと腕の中へ収まった。
「我が助手よ、探したぞ」
笑顔でそう告げる支倉は猫が好きなんだなって分かる。黒猫も、にゃーと答えていて会話しているみたいに見える。
「つーか、その黒猫…おまえの助手なのかよ?」
「ああ、そうだ。日々共にスクープを追っている」
即答する支倉に、いや正しくは黒猫に対して…俺はまったく別の気持ちが芽生えた。
「…羨ましいな」
「ん?なにか言ったか?」
こんな時だけ耳聡いヤツだな!つーか今の言葉…俺、口に出してたのか!?うわっ!ヤ、ヤベェッ!!自分でも顔に熱が集まるのがはっきりと分かる。俺は可能な限り下を向いた。
「な、なんでもねぇよ!」
「ふむ…そうか。まぁ、猫の相手がしたくなったら来るといい。特別に私の助手を貸してやろう」
「はぁ!?なに言ってんだ??」
突拍子のないことを言い出す支倉を俺は見上げた。
「おまえは猫好きになったのだろう?ーーだから、猫と共にいられる私が羨ましいんじゃないのか?」
「ち、ちげーよ!」
こいつ…案外、天然なのか??いや、てかさっきの聞いてたのかよ!?マジかよ!…いや、だったら天然じゃないのか??マジで分かんねぇ〜!
「よく分からないヤツだな。理解に苦しむ」
それはおまえの方だ。自分で言うのもなんだが…俺は分かりやすいらしいからな!!
「ーーまぁ、でも」
支倉は微笑んで続けた。
「おまえは今でも十分、犬らしいから…安心しろ」
「…は?」
「ーー猫は私だ。譲るつもりはない。…猫に興味を持ってくれたのはありがたいがな。同類として感謝しておこう」
こいつの言うことはいつも難しい…独特すぎて分からねぇ。…でも、バカにされるのは勘弁だから意味は聞かねぇ!
「おっと、そうだった。そろそろ夕食ができると小日向が言っていたな。向かうといい」
「え、おまえは行かないのか?」
俺の問いかけに一瞬、驚いたような顔をした支倉だったが、すぐに不敵に笑った。
「ーーなんだ、共に行きたいのか?」
「ーー!」
俺は完璧、こいつの誘導尋問に引っかかったのか!?ちくしょう!否定する間もなく、また顔が熱くなっていく俺をよそに支倉はふっと笑う。
「…冗談だ。私は我が助手と行くから、あとから来ればいいーー」
「いや、俺も行くぜ」
今度はさすがに予想外だったのか、支倉は目を見開いていた。内心したり顔で俺はその隣まで移動する。
「ーーおまえの言う通り、その黒猫気に入っからな…助手、借りるぜ?」
俺はそれだけ告げて支倉から助手を、上司の腕から助手を借り受けた。俺を見ながら、にゃーと鳴く助手も上機嫌で助かったな。後ろから少しだけ遅れて支倉の靴音が聞こえる。どうやらついてきているらしいな!

ーーたまには、形勢逆転もアリだよな?

自分と似ている黒猫を抱きながら歩く響也を、仁亜はふっと微笑んで追いかけていたーー…。

END

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