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2000文字のシナリオ『クワガタの木』

○タイトル
『クワガタの木』

○制作時間:
執筆   60分(プロット制作時間も含む)
推敲   60分

○お題単語(https://tango-gacha.com/)
・クワガタ
・裾野
・不採用通知

○あらすじ:
憧れの会社から不採用通知をもらい、富士の裾野にある田舎に帰った青年。
そこには初恋のあの人も帰省していて、童心に返ってクワガタ取りをすることに。
そこで彼女の秘密を打ち明けられ、ここからもう一度頑張ろうと二人で誓うのだった。

○キャラクター:
・道庭中矢(みちばなかや)
20歳
フリーターとして上京し、バイトの先輩のコネクションを頼って憧れのゲーム会社に入ろうとしたが、
それがダメになってどうしたらいいかわからず田舎へ帰省。
頑張り屋、我慢してしまう人

・猫山つかさ(ねこやまつかさ)
23歳
結婚して、地元を離れていたが、夫の不倫をきっかけに仲がこじれて帰省している。
夫からはすでに離婚届を突きつけられ、自分でももう終わったと思っているが、
あと一歩のところで踏ん切りが付いていない。
大人のお姉さん、母性あふれる優しい人

○本文:


//背景と演出を指定していきます。立ち絵表示などは割愛します
//セリフは25字×3行

//背景:空

【】
不採用通知が届いた。

ダメだったんだ……。
そう思った瞬間、
なにかがぷつっと切れて……。

俺は、富士の裾野にある田舎へ
帰ろうと決心をした。

//背景:森
//SE:足音

【中矢】
はあ……はあ……はあ……。

ちょ、待って……歩くの早い……。

【つかさ】
あれ……中矢君、もうへばっちゃったの?
もうっ、しっかりしなさい。

東京に行って、体力なくなっちゃったんじゃない?

【中矢】
いやいや……つかさお姉ちゃんだって、
東京組でしょ。

【つかさ】
うふふ、私は毎日の家事で体が鍛えられてたからね。
ほら、クワガタの木まではあとちょっとだよ!

【中矢】
家事で、鍛えられるもんなの?

【つかさ】
もんなの。

【】
この人は、猫山つかさお姉ちゃん。
いや……今は名字が変わって、たしか本田だったか。

つかさお姉ちゃんとは
家が近かったし歳も近かったから、
小さな頃は毎日のように山で遊んでいた。

まあ、要するに幼なじみのお姉さんだ。

【中矢】
ふぅ……それにしても暑いなあ。

【つかさ】
今日の最高気温は30度だって。
まだ本格的な夏じゃないみたい。

【中矢】
今からこんなじゃ、夏が思いやられる。

【つかさ】
でも、子供の頃はそんなこと考えてなかったよね。

夏休みだ、いっぱい遊ぶぞー!
ってさ。

【中矢】
俺は夏休み中、
つかさお姉ちゃんに引っ張り回されっぱなしだった。

【つかさ】
楽しくなかったの?

【中矢】
……まあ、楽しかったですよ。

【つかさ】
でしょ。

じゃあ、子供の頃を思い出して、
元気出して行こう!

【中矢】
はいはい。
お姉ちゃんの言うとおりにするよ。

//演出:フェードアウトして場面転換
//背景:クワガタの木

【つかさ】
ついたー!

【中矢】
はあ……やっとついた。

【つかさ】
あれ、クワガタの木ってこんなに小さかったっけ?
なんかもっと大きかったような。

【中矢】
いや、この木であってるよ。
ほらここの切れ込み。

【つかさ】
あ、切ろうとしてできなかったやつだ。
なんで切ろうとしたの?

【中矢】
ええと、なんでだったっけ?
なんかそうしたかったんだよ、子供の頃は。

【つかさ】
そっか。
あの時は何を考えて生きてたんだろうね。

【中矢】
ホントにね。

よいしょっと。
いないなぁ。
そっちにクワガタ、いる?

【つかさ】
うーん。
ううん、いない。
まだ出てないのかもね。

【中矢】
やっぱり、まだ早かったか。
くたびれ損だなぁ。

【つかさ】
ねえ、中矢君。
あのさ、聞いてもいい?

【中矢】
ん?

【つかさ】
どうして……君はこっちに帰ってきたの?

【中矢】
え、ああ。
そうだなぁ……。

俺さ、行きたい会社があったんだ。
でも、色々重なってダメになっちゃってさ。

そしたら……どうしてがんばってたのか、
わからなくなっちゃったんだ……。

つかさお姉ちゃんは?

【つかさ】
私は……。
私は、吹っ切れたくて帰ってきたの。

【中矢】
吹っ切れたくて?

【つかさ】
まあね。
大人になると、積み重ねってあるでしょ。
それが崩された時ってけっこうショックでね。

でも、負けてられないし。
だから、もう一度積み重ねようって思ったんだ。

【中矢】
積み重ね……。
って、もしかして……?

【つかさ】
ああ、いいのいいの。
励まさないでね、みじめになるから。

そのことはもう決めているから。
書類も提出しちゃったし。

【中矢】
ふーん。
クワガタの木は気晴らしってこと?

【つかさ】
ちょっと違う。

ここは私たちの子供時代。
その象徴だから。
もう一回始めるならここかなって。

【中矢】
子供時代……からか。
たしかにここからなら、もう一回。

今度は自分のペースで出来そうな気がする。

【つかさ】
ね。
ここが私たちの再出発点!

その再出発に要らない物は、こうだ!

【】
――そう言って笑ったつかさお姉ちゃんは、
指輪を放り投げた。

//演出:空に投げられた指輪がキラリと光った一枚絵

【中矢】
え……!
お、お姉ちゃん!?

【つかさ】
子供の頃はしてなかったもん。
でしょ?

【中矢】
思い切りがいいなぁ。

【つかさ】
再出発だもん。
さ、中矢君も何か捨てて!

【中矢】
え、ああ、じゃあ。

【】
財布に入れてあった名刺をビリビリに破く。
そして、それを宙に撒いた。

【中矢】
コネ作りとかがんばったんだけどな。

……でも吹っ切れた!

【つかさ】
うん、吹っ切れた。

さ、帰ろう。
クワガタが出てくる時に、また二人で来ようね。

【中矢】
今年の夏……いや。
飽きるまでずっと付き合うよ。

【】
こうして、この夏――。
このクワガタの木から、
俺たちはまた始まるのだった。


終わり

文字数 2083字(演出指示含め)

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