最後の団体戦

皆様お久しぶりです。小樽商科大学で将棋部に所属しているヤマヤです。

今回は去る11月25日に行われた秋季大会団体戦の振り返りを行っていきたいと思います。
筆者自身最後の大学将棋団体戦。今回の目標は優勝でした。果たして結果は。


大会前

大会前は毎週水曜日の部内での定例会に加え,大きく2つの活動を特別版として追加して行った。
1つ目は一般大会への参加。10月末に行われた佐々木治夫杯に参加し,大会慣れをしておこうという目論見だった。

2つ目は他大学との交流。昨年夏より酪農学園大学・北海道科学大学との交流を実施しており,今回も大会前にいろんな将棋に触れることで刺激を受ける機会となった。
余談だが,筆者は道内将棋部8か所のうち,これで6か所を訪問。残りは室工と釧路だが,これはかなり厳しいだろう。


大会当日

いつもより1時間近く起床。自身の将棋を含めて最後の確認を行った。
いつも通り団体戦の日はSPEEDのOne More Dreamを聴いて気持ちを落ち着かせる。これも今回で最後になるのかとしみじみ。

家を出るとハプニング。目の前を乗るはずのバスが通過。どうやら土日祝ダイヤが普段より2分くらい早いことを見落としていたようだ。慌てそうな場面だが,とりあえず時間に余裕を持っていたので次のバスで移動。

会場に到着。ここでまたハプニング。副部長のK君が不在。大会直前の定例会も体調不良で欠席していたが,まさか今日もか…? そんなことを考えていたら,「寝坊です」との報。2回戦の時間から来れるらしいが,最後の大会ピリッとしないなぁ。


1回戦 vs釧路公立大学

1回戦は釧路公立大学戦だ。春の参加者が3名で,秋の参加が危ぶまれたがちゃんと人数を揃えてきた。

自分の相手はHNMさん。正直なところ存在は知っていたが将棋は知らない。戦型は相居飛車になった。こちらの急戦調の構えに対し,後手は左美濃っぽい構えにしてきた。

急戦調の構えvs左美濃

右銀を簡単に5段目に繰り出すことができ,以下難なく押し切った。終局時の持ち時間は残り6分半。持ち時間10分の大会なので,消費時間は3分半ほど。今回は内容でも時間でも相手を圧倒することを心掛けていたので,まず1局目は成功。

チームとしては6勝1敗。MSM君が相手エース格のTRI君に負けた以外は全て勝ち。


2回戦 vs旭川医科大学

2回戦は旭川医科大学が相手だ。今までの対戦は全て勝利しているが,4勝3敗のケースもあり,油断できない相手だ。商大にとってラッキーなのはUMMTさんが不在なことか。

自分の相手は3年生のYMGT君。実は彼,高校の後輩にあたる。高校時代は将棋部に所属していなかったが,大学に入ってからメキメキと力を伸ばしている四間飛車党である。

ここで筆者は大会で恐らく初めてとなる居飛車穴熊を採用した。知識・経験不足から危ない部分はあったものの何とか組むことができた。

居飛車穴熊vs銀冠

危ないところはあったものの,冬眠に成功。ここから中盤で銀得して一気に押し切った。

チームも6勝1敗。MSM君が相手チーム最強クラスのSITUさんに負けたが,これは仕方なし。

結果的に6勝1敗を2つ並べて午前は終わり。北大が最初抜け番なので,この時点では単独トップ。


3回戦 vs室蘭工業大学

昼休憩後の一戦は室蘭工業大学戦である。
前年チャンピオンを倒した昨年も負け,実は対局前時点まで未勝利なのは,北大とこの室工なのである。卒業前に一度は勝ちたい。

自分の相手はFJTさん。前回大会まで頻繁に(?)KMR君に当てられ,毎回折られている強敵。いつも居飛車なのだが今回は角交換四間飛車で来た。

居飛車vs角交換四間飛車

結局自分もFJTさんも超がつくほどの早指しで,対局開始から15分たたず終局。会場で一番早く終わったことは言うまでもない。


時間をかなり残している。もはや”マッハ・ヤマヤ”である

チームも6勝1敗で初めて室工に勝った。3連勝。今回は強い。強いぞ。

4回戦 抜け番

ここで抜け番は大きい。ゆっくり休みつつ,北大と学園の将棋を偵察。事前に入手していた情報通り。

5回戦 vs北海学園大学

遂に迎えた大一番。ここからが大きな山場。北海学園との一番である。
昨年はオーダーをズバリ的中させて4勝3敗で逃げ切った。その時は北大がざわついていたが,今回は実力でへし折りに行く。(ちなみにその影響で北大は学園戦を待たずに優勝が確定し,学園戦で育成リーグをやったのはここだけの話)

筆者の相手は…KNOK君だ。いや,東日本大会で対戦したよぉ。
戦型はその時と全く同じ筆者の居飛車vsKNOK君の四間飛車になった。

早めに5筋の歩を交換しておいた。

早めに5筋の歩を交換し,右銀を進出しやすくしたが,実際には後手の飛車が軽く使えるようになって難しい。


途中危ない局面もあったが,駒得が生きる展開に。

負けを覚悟した局面もいくつかあったが,何とか誤魔化して逃げ切り。
チームとしても5勝2敗で昨年に引き続き勝利。学園1年のKNM君強いね。来年以降,彼は要警戒だね。


6回戦 vs北海道大学

ついに迎えた北大戦。再設立後では最強クラスの戦力でぶつかる。相手チームはエースのSSDがインターンで忙しく欠席。これをチャンスと言わずして,何を好機と言うのだろうか。

オーダーでは優位に立った。並びの前の方,ヤマヤvsKTMR・NKGW戦は避け,A井vsHSGW戦・S山vsFRTN戦・M島vsMUR戦・ヤマヤvsHRKW戦で合計4勝の計算がガッチリハマった。オーダー的中。勝てる。勝てるぞ…

他も勿論勝利を狙ってもらうことは言うまでもないが,それぞれに悔いのない将棋を指してもらうことを祈りつつ,対局開始。自身の戦型は向かい飛車vsHRKW君の居飛車になった。

なんかどこかで見たことあるな

指しながら「どこかでほぼ同じ形を経験したな」と思った。ちょうど1年前。それも北大戦。今回不在のSSDとの1局だ。あの時も向かい飛車+金美濃だった。飛車先の歩が持駒か否かは大きく違うが,自陣の形はほぼ同じ。今回は後手が天守閣美濃の可能性が高い上に,先手側の攻めのレパートリーが多い。行ける。行けるぞ。

上の局面以降,後手が△3二銀・△6三銀とした瞬間を狙って仕掛けた。

優劣なんてどうでもいい。とにかく攻める。

後手から6筋の歩をすぐに取れないのがツラいところだろう。▲6四歩が権利で残るなら,先手側の仕掛けは成功だと思っていた。上の図以下,△7七角成 ▲同桂 △3三角として角を攻防に利かせながら打ってきたが構わず▲6四歩以下攻め続ける。

一見するとピンチ?

当然これは読んでいた。▲同飛はマズイので他の手を選ぶしかないが,▲6三歩~▲6四歩がピッタリと言うのが筆者の考えだ。本譜も以下△6四同飛▲7三角となったが,手順に馬を作りながら要所に利かせることができるので先手有利というのが対局中の読みである。

恐ろしい狙いを秘めている。

何気なく馬にヒモを付けた一手に見えるが,放置すると▲3五桂が激痛。取ると▲4五馬で飛車が素抜ける。かと言って取らないと即詰み。後手としては△4九銀などから攻めたいのだが,そんな余裕を与えない。本譜は△4四馬。確かにこれも味がいい手だ。

金を龍で追い回したのが後手のミスか

後手が龍を作って先手の左金を追い回したのが後手の躓き。桂打ちに対して馬を引いてからだったので,手順に狙われた金で龍を追い払うことができた。

大部分はこの時点で読み切っていた。

この局面で後手が自陣に手を入れずに攻めた場合のプランは,既に完成していた。本譜は後手が△8八龍▲6八歩△9七龍としたので,そのプラン以上の成果を得ることができたが…。△9七龍以下は▲4五銀△5七香成▲4四銀△4八成香▲3五銀△3八成香▲同玉△3五歩▲4五馬と進む。

「負けない」ことを意識していた。実際は即詰みがあったらしい。

上の図で△1三玉は▲3一角が強烈な捨て駒で,以下▲2五桂~▲2四金で詰み。となると▲4五馬には△2二玉しかないが,▲2四龍△3一玉▲5三角△4二金▲2二金△4一玉▲3二金△同金で1枚守備駒を減らしてから▲9七角成で勝負はほぼ決した。

投了図

相手の手に乗って守備を固め,一気に攻め切ることができた。

HRKW君はまだ1年生。今後まだまだ強くなるだろうし,商大としても気が抜けない。

さてチームとしての結果だが,残念ながら2勝5敗だった。頼みの綱のA井君がHSGW君の研究範囲に突撃したらしく完敗。S山君はFRTN君に力負け。無念の敗北である。去年から進歩してないじゃーん

この時点で優勝の可能性は限りなくゼロになった。最終戦,北大の勝利数+5以上なら優勝だが,北大が2勝どまりは考えにくい。状況としてはかなり厳しい。


7回戦 vs酪農学園大学

優勝云々抜きにして,道内で指す学生大会団体戦の将棋は泣いても笑ってもこれが最後。最後の相手は酪農さん。昨年から仲良くさせていただいている大学である。主戦力が1∼2年生で,なおかつ獣医学部があることで6年生まで戦えるので,長期にわたった成長戦略が描ける。今,道内将棋部で一番魅力的な部だ。
前置きはこの辺りまでにして,内容に触れよう。自分の相手はHSN君。2年生の振り飛車党である。序中盤から時間を確り使うイメージを筆者は抱いている。秒読みが少し苦手なのかもしれないが,経験を積んで秒読みでも慌てないようになるとかなり脅威である。

戦型は先手HSN君の四間飛車vs後手ヤマヤの居飛車になった。…が,筆者にはやりたい戦法があり,なおかつそれは先手でないとできない戦法だったのだ。従って千日手を意図的に狙いに行く。

千日手にするには??

上の図から△2四角▲7八飛(△7九角成を防ぐ)△3三角(飛車先突破を狙う)▲8八飛を繰り返し,先手をゲット。

さて,筆者が何が何でもやりたかった戦法は何だろうか?? お考えいただきたい。

千日手指し直し局


5手目▲4五角戦法。筋違い角とも言う

何としてもやりたかった戦法。それは筋違い角だ。
遡ること2年。21年秋大会。初めて大学で団体戦に出場した際に相手に指された戦法が筋違い角だった。その将棋も千日手指し直しだったのだ(その際は指し直し局で筆者が後手になっている)。幼い頃から自身も指している戦法だし,最初が筋違い角なら最後も…。そんな思いだった。

筋違い角の定跡どおりの応手

筋違い角の定跡どおりの応手。酪農さんとの交流で,△8五角については触れていた。以下歩を取りあい,後手は三間飛車に振る。先手は中央を制圧するために金を繰り出していく。

角をすぐには取れない。

意外と大変だった。現時点では先手は角を取れない。いいタイミングで取りたいところ。

実はチャンス到来。

上の図(細かい手順覚えてない)で,▲8五桂と跳ねた。読み筋では以下△同桂▲同歩だったが,本譜は△8四歩だったので▲7三桂成△同銀となり▲3五桂とB面攻撃が出来た。以下は手順に押し切って勝利。チームは6勝1敗。KMR君がSNJ君に負けた以外は全て勝利。

何だかんだで今大会6戦6勝。団体戦通算の個人成績は20勝4敗で8割3分3厘。8割復帰だ。

終局∼閉会式の間,酪農さんがオーダーの組み方について話を聞きに来てくれた。こんなに熱心に話を聞かれたのは初めてというレベルで,身を乗り出して聞いてくれた。嬉しかった。来年以降,商大の活躍はもちろんだが,酪農さんにも団体戦をもっとかき乱して面白くしてほしい。

結果発表

全ての対局が終了。商大はチーム勝ち数6勝,総勝ち数31の準優勝である。これをどう捉えるかは人それぞれだが,筆者は物凄く悔しい。今回は優勝するのが目標だったから。優勝した北大,おめでとう。全国でも頑張ってください。

今回の大会を踏まえて,商大としての課題は大きく2つ。忖度なしでズバッと言わせていただく。
1つ目は永遠の課題だが,序盤研究を疎かにしないこと。出来ることなら序盤で相手にリードされないことが理想だ(当然だけど)。
研究しているフリもいらない。勝てない研究ごっこは不要だ。覚える気がないなら研究ごっこの時間を終盤力強化に回した方が遥かに良い。

2つ目は終盤である。終盤に抜け出す力が弱い。終盤勝負できるメンツが少ない。終盤が強ければ逆算して構想を練ることもできる。悪くなっても巻き返せる可能性が高まる。終盤弱くていいことなんて一つもない。地道に毎日,実戦詰将棋をやったり必至をかける問題に取り組んだりして欲しいと思う。


最後の団体戦を終えて

「光陰矢の如し」という諺がある。月日の流れが非常に早いことを意味するが,自身が将棋部員・部長としてもがいた4年間はまさにこの諺通りだった。

団体戦出場希望者が足りず,出場することすら叶わなかった2020年。人数は何とか揃えるも,勝つ難しさを知った2021年。北大の壁の高さを知った2022年。北大を倒す絶好の機会を得るも,最後まで倒せなかった2023年。勝負の世界に生きる身である以上,悔しくないとは言わない。けれど,出来ることは全てやったつもりだ。やり切った。学生名人に輝いた偉大な先輩に近づくことはできなかったが,商大将棋部の一員として戦えたことは筆者の誇りだ。

「記録なし」だったチームが準優勝。あと1歩だ。儚く散った筆者の夢は,後輩が必ず成し遂げてくれると信じている。吉報を待っているぞ。


最後になりますが,私に部の運営のイロハを教えてくれた先代部長の西本さん,私の誘いに応えて大会に出場してくれた同期のみんな,頼りない私についてきてくれた後輩,応援してくれた小樽支部・旭川愛棋会支部の皆様,対局してくれた全ての皆様に感謝申し上げます。本当にありがとうございました。商大将棋部をこれからもよろしくお願いいたします。


2023年12月1日
小樽商科大学将棋部第2代部長・山谷帥温

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