見出し画像

ともこ、映画絵日記をかく 其の9『夢みるように眠りたい』


二十歳の頃、1本の映画に恋をした

その恋しい相手にはその後1度も会えず、恋心だけを残して記憶は薄れて行った

その映画がデジタルリマスター版で復活
F市のKシネマで掛かるという
1回だけの上映
しかも夜
勿論、そんなことは構わない
昔好きだった男の子に同窓会で会う気分
二十歳の頃のように愛せるかしら?

主役が佐野史郎なのすら忘れてた
微かに覚えているのは、淡いピンク色の花びらが降りしきるなか、パラソルを差しひとり佇む女性の姿
着物は橙色か蜜柑色
手を差し伸べ、桜の花びらが掌に落ちるのを待っている

だから、いざ上映となって驚いてしまったわ
だって、モノクロ映画だったから
私の記憶の中のピンクや橙色や蜜柑色は何?

私の脳内テクニカラーは、モノクロームに淡くて優しい、でも鮮やかな色彩を着色した
記憶はすり替えられたんだ

その後の林海象監督作品はメジャー路線へ変わり、私は観るのを止めた

35年前
林海象は29歳
いつもの私だったら「下らない謎解き」だの、「サイレント映画のデフォルメの演技」だのと言いそう
それでも、恋は盲目とは良く言ったもので、35年後の私も夢見るようにスクリーンを見た

20歳の頃と同じように、モノクロームの映像に鮮やかな色彩を観て、サイレントの音の中に佐野史郎の声を刻んだ

2021年4月27日 F市Kシネマにて鑑賞

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?