季節

冬の冷たさを残した春の匂いと暖かさをまぜた、甘いあの日。とろりと溶けた視界にうつる、くしゃりとやさしい目元の、その笑顔。

太陽が熱を夜に引き継ぐための夕焼け、満足感と疲労感。

ツン、と冷えた空気が鼻を刺す。銀杏の羅列とオレンジ色の空に手を伸ばした。寂しさは埋まらない。

冷たい空気に星が輝く。厭世的にロマンチックを謳うぼくの涙を拾って、笑い飛ばした。

季節が、まわる。桜の香りがして、あの日と同じ、形にできない切なさが体の核を鈍く刺した。

手を伸ばす。やっぱり届かない。埋まらない。消えない。

一歩も進みたがらないこの足を、あげられない顔を、和らげる君は、もういない。今となっては、あるいは、初めから存在しなかったのかもしれない。立ち止まらなかった、立ち止まれなかったぼくは、一過性の嵐みたいなそれを恣意的に見逃した。二度と人生が交わらなくても、いいと思った。

だって、ぼくは。
不確かで不安定なあのあたたかさを、やわらかさを、救いを、言葉を、今でも、いつまでも、信じつづけている。

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