ビジャレアルの育成

サッカー指導者の佐伯夕利子さんが,スペイン一部リーグビジャレアルCFの育成をFOOT×BRAINで紹介した。

佐伯さんは,2003年当時,スペインサッカー界では女性として初めて男子ナショナルリーグの監督に就任,指揮を揮った。その後もスペインのサッカー現場で活躍し2008年にはビジャレアルCFと契約,育成部に所属した。2020年3月にJリーグの常勤理事となり,その経験を元に日本サッカー界の発展に貢献すべく,活動されている。
そんな佐伯さんが語った,ビジャレアルCFの育成に対する考え方と取り組みが凄い。サッカーにとどまらず,あらゆる育成(教育)に繋がるビジャレアルの育成をここにまとめた。

①なぜ育成?
2大クラブ(レアルマドリード・バルセロナ)と競技力というフィールドでまともに勝負することはできない。ビジャレアルは,選手のバリューを高める活動に力を入れよう。どのクラブ,どの国に行っても適応できる能力を養う。そういう能力をつけさせることが結局は選手のバリューに変わっていく。

②真の育成クラブへ
2012年,ビジャレアルは2部リーグに降格し財政難に。そんな中,フェルナンド・ロッチ会長は「育成の予算は絶対に削るな」と指示。ここから真の育成クラブを目指し一丸となった。

③コンセプト
ビジャレアルは,選手を育て移籍金を得る,売りクラブとして育成選手に投資する。お金だけでなく,時間,エネルギー、ノウハウ,愛情,情熱,そういったもの全てを投資と捉え,全力で人を育てる。そうして,持続性をクラブとして生みながら将来に繋げていく。このコンセプトとビジョンが一貫して安定しているクラブである。

④指導方法
・フットボールの変化の速度はものすごく速く,その時点での最適を文書化しているうちに新たな最適が生まれていくため,メソッドは文書化されていない。そうして,PC画面に向かっている間は,選手に向き合っていないと捉え,主語は選手であることを確認。選手を主語にするとコーチは,自分たちで努力してなんとなることに時間とエネルギーを割くことが重要であるというに気付いた。

・選手にインプットをし,それを体現してもらうという「教える」を何十年も繰り返してきたが,これは意外と一方的な行為である。よって,「教える」ではなく「学ぶ」にフォーカスした。さらに,「学ぶ」から「学び合う」へ。つまり,選手と指導者が学び合う指導を目指した。その結果,コーチ120人全員で選手とのコミュニケーションについて討論し,押しつけから問いかけへの指導へと進化した。

・育成年代の選手の成長スピードはそれぞれ違う,だから選手ごとに接し方(指導方法)を変えるのも特徴。それが,長所を伸ばす指導となる。

・メッシを出せば必ず勝てるかといえば,そうではない。つまり,勝ち負けに方程式はないということになる。方程式がないのであれば,自分たち次第で何とかなることに意識を向け,そこに時間とエネルギーと努力を注いでいこうと考える。

・サッカー選手としての側面だけからのアプローチでは選手は育たないと気づき,選手が通う学校の先生と連携を図り,選手の様子を双方からリアルタイムで報告していくシステムを構築した。これは,ビジャレアルの「ただサッカーをするクラブではない」という哲学に基づいている。まず人間性の教育を行い,そのあとにサッカー選手として育てる。この考え方を守ることでより偉大な選手が生まれる場所となる。

世界屈指の育成クラブとなったビジャレアルの育成方法には,日本の教育の問題点を解決するためのヒントと,日本の教育が目指すものを実現するための策があると感じた。
当然のことながら教育は,教える側の自己満足で終わってはならない。その教育によって学ぶ側に得るものがなければそれは教育とは言えない。その指導によって学ぶ側はいったいどれだけのものを得ることができたのか?常にその問いを教える側が謙虚になって持ち続けることで,その行動は変わり,自然とその場に最適な「学び合う」策が生まれてくるのではないのだろうか。

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