漫画版『アンサングシンデレラ 病院薬剤師 葵みどり』登場人物まとめ
ドラマ放映を機に、あらためて原作を読み直してみた。病院薬剤師だけでなく、薬剤師全体のリアルが丁寧に描かれている。
巻を追うごとに登場人物も増えてきたが、「登場人物紹介」的なページが無いことに気が付いた。また、極力、物語の流れを妨げないようにしているのだと思うが、作中で人物紹介がなされるのは稀である。
自分用にキャラを整理する目的で、この記事を書くことにした。基本的には病院関係者の医療職キャラを中心に(言うまでもないですが、この作品は患者や患者家族の描き方も素晴らしいです)。
(※ドラマでは下の名前まで設定されているキャラも、原作で明らかになっていない場合は、名字だけにしました)
原作をこれから読もうという方の参考にもなれば幸いです。
①葵みどり
主人公。新卒で入職2年目(5巻から3年目)。作中での年齢より、6年制の薬学部を浪人・留年せずストレートで国家試験に合格したようだ。取り立てて優秀という描写はないが劣っているわけでもなく、ごく普通の新人薬剤師として描かれている。
小児科病棟を担当。5巻からは産科病棟も兼任する。
原作1巻冒頭の「薬剤師って、いらなくない?」という疑問は、実際に働く薬剤師なら誰もが一度は思ったことがあるだろう。そして「そういうもんなんだ」と妙に自分を納得させているのが、世の薬剤師の大半である。
みどりはある意味、新人ゆえに「空気が読めず」、疑義照会の回答をもらうべく医師を待ち伏せしたり、「(自分の考える)薬剤師としての責務」を全うしようとするがあまり「出過ぎた行動」に出てしまう。
それを見て「バカやってる」と責められる薬剤師はどのくらいいるだろうか? それは自らの仕事、すなわち「薬剤師という仕事」を見下していることに外ならないのだ。
瀬野の指摘の通り、やり方が稚拙ではある。けれど彼女は決して、エキセントリックな人物ではない。しいて言えば、小児科の散剤やシロップの味への興味が強いことがあるが、それとて小児科門前薬局に勤務する薬剤師にとっては当たり前のこと。どんな味かも知らずに、服薬指導できるわけがない(ちなみに、真の「変態」とは、混合された散剤の構成薬剤を、味をみてすべて同定できることである)。
②瀬野
頼りになる先輩薬剤師。年齢は明記されていないが、少なくとも5年前には萬津総合病院にいたことになっている。その前には別の職場にいたようで、推察するに30代前半あたり。薬剤師歴は10年ちょっとであろう。
原作では役職名が明かされていないが、羽倉が「上司」と呼んでいるので「主任」くらいの役付きなのかもしれない。
救急救命室が担当のようだが、他にもオペ室やDIを兼任している可能性がある。知識・経験・判断力、どれも優れている。
喫煙習慣あり・カップラーメンを好んだりするなど、自身の健康には無頓着。既婚・未婚・離婚は描写がないため不明。
③相原くるみ
後輩薬剤師。みどりが2年目の時の後輩なので、新卒1年目。調剤室と内科病棟を担当している。
勉強熱心で真面目な性格。彼女の描写を通じて、新人の薬剤師らしい「知識が足りていないのではないか、という不安」を、非常にうまく描いている。
④羽倉
後輩薬剤師。相原とは同期のようだが、作中では同期らしい会話はほとんど見られない(飲み会では相原ともども同席しているので、仲が悪いわけではなさそうだが)。
表情少なめのドライ系男子。調剤室、整形外科病棟を担当するほか、褥瘡委員会にも参加している。男子の中では背はやや低め。相原が高めなので、並ぶとほぼ同じくらい。
みどりからは「ハク」のあだ名で呼ばれる。先輩であるみどりに容赦ないツッコミを入れる。もしかすると大学も一緒だったかもしれない。スポーツファーマシストの資格取得に向けて勉強中。
⑤刈谷
先輩薬剤師。ドラマでは主任という設定だったが、原作ではそのような描写は無い。病棟を持っている描写が無いので、「調剤室の責任者」というポジションかと思う。
大手調剤チェーンで店長まで任されたが、そこをやめて萬津総合病院薬剤部に来た、という設定。作中では「勝ち組なのに」と言われていたが、調剤チェーンの店長や管理薬剤師は、決して勝ち組なんかではない。エリアマネージャーの理不尽な数字要求と、思うように動いてくれない現場スタッフとの板挟みにあう、かなりツラいポジションである。
合理性しか考えていない冷徹なマシーンのごとく描かれているが、彼女のセリフはどれも的確で正論である。何より、いちばん病院そのものや、保険制度全体のことを考えている。
それはすなわち、巡り巡って現場の医療スタッフと、患者さん自身の安全につながる。
⑥江林隆二
先輩薬剤師。「エバさん」のあだ名で呼ばれる(呼んでるのは瀬野だけかもしれないが)。
『がん薬物療法認定薬剤師』を取得している。簡単に取れる認定資格ではないので、抗がん剤治療にはかなりの知識と経験があると分かる。
飄々としているが患者さんには真摯に向きあい、時に医師とも臆せずに意見を戦わせる信念を持っている。
作中の描写から、妻子があることが分かる。いつも寝癖がついている。
⑦剣持
先輩薬剤師。瀬野と同い年くらい、または少し年上か。ちょこちょこと登場する割にはモブ扱いなので、キャラがつかめない。長白衣を着ているので、はじめはドクターかと勘違いしていた。
循環器に強いということなので、循環器内科病棟の担当なのかもしれない。今後はみどりらともかかわるエピソードがあるのかも。
⑧販田聡部長
萬津総合病院の薬剤部長。登場が少ないのでキャラが不明だが、「とりあえず現状維持」「ことなかれ主義」という側面が垣間見える、頼りにならないトップ。
⑨小野塚
24時間対応の調剤併設ドラッグストア『ナカノドラッグ』に勤務する薬剤師。年齢はみどりより一つ上、薬剤師経験年数も1年多い。
就職当初は目標を持って働いていたが、過重労働になる一方の業務に気力を擦り減らし、仕事の意義を見失ってしまっていた。
24時間まではいかなくとも、夜遅くまで開局する調剤併設ドラッグストアでは、薬剤師の勤務も過酷になりがちだ。ましてや、そのしわ寄せは必然的に男性と独身女性に押し付けられることとなり、少子化の昨今では不満の声も上げにくい。
さらに、時間外では疑義照会もままならない。用法の記載漏れ、先発薬の一物二名称の変更など「とてつもなくくだらない」変更ですら、行うことができない。そして患者には罵られる。
経験上、夜遅くや休日など本来の診療時間から外れた「まともじゃない時間帯」に処方箋を持ち込む患者は、たいてい「まともじゃない」ので、揉めることも多々あった。
こうした環境で、彼があのような対応になるのは無理もないと思う。似た環境で働いたことのある薬剤師は、誰も彼を、怠慢だの甘えだのとは責められないだろう。
⑩豊中ナース
萬津総合病院の救急救命室担当ナース。ER担当ということは当然、経験豊富だと推察できる。オペ室もそうだが、こうした職場には即時の判断力、行動力も求められるので、結果、きつい性格の人が多くなりがち。
彼女のように「ゆるい物腰で、言うことキツい」ナースは、わりとどの病院にも存在するように思われる(薬剤師なら、先輩にいた)。
もし同僚にいたら非常に警戒するが、この手の人は味方になってくれたら(つまり相手に認められたら)とても頼りになることは、言うまでもない。
⑪久保山ドクター
小児科のドクター。独特の髪形は、「医師だから許される」。
親しみやすいキャラは小児科には必須だと思うが、当然ながらちゃんとすべきところはちゃんとしている。
みどりが「暴走」してかなり踏み込んだ服薬指導をしたとき、瀬野の口利きに応じて「服薬指導依頼書」を発行してくれるくらい、理解のあるドクター。奥さんはナース。
⑫小児科病棟のナース
作中では名前を発見できなかったが、みどりの担当病棟のナースだけあり、登場回数は多い。切れ長の目と口元のほくろがチャームポイント。
入院患者の、細かな言動や態度、出来事をメモする冊子を持ち歩き、パーソナリティを把握するよう努めている。
⑬畑中ドクター
消化器内科のドクター。ケモ(がん化学療法)の場面で登場。緩和ケア(麻薬等によるがんの疼痛コントロール)にも力を入れている。
⑭庄司ドクター
内科のドクター。みどりと同期なので、まだ経験は浅い。
患者の入院期間について、みどりと意見が対立するが、あくまで患者の目線に立ったみどりに対し、病院経営の視点に立った意見(内科部長の指示ではあるが)を提示する。
この場面が公開されたとき、大きな批判の声は聞かなかった。「診療報酬」という一般の人には分かりにくい制度を、まったくの注釈なしで曝け出したこの場面は、とても画期的だと思った。
この場面を、ドラマで再現したらどうなるか。
⑮沖ナース
小児科病棟のナース。ややふくよかな女性。カーディガンを羽織っていることが多い。
救急搬送で入院になった男性患者に対してキレるが、それは過去に彼女がお付き合いしていた男性に起因するようだ。
⑯救急救命のドクター
大柄な体格とおおらかな性格の救急救命医。職場的に豊中ナースとともに登場する場面が多い。
⑰伊吹響子ナース
オペ室の看護師長、接遇委員会委員長。穏やかな物言いではあるが、身だしなみ、振る舞い等について厳しくチェックし、指摘する。
⑱松永ナース
みどりと同期のナース。所属病棟は不明。
接遇委員会のメンバー。伊吹師長に心酔しており、「きっちりしていること」を重視するあまり、原理主義者化している。自らが正しいと信じたことについては、他者を屈服させてでも守らせようとし、ときに行き過ぎた行為に発展する。
現実にもこういう人物はどこでも存在し、周囲を辟易させている。
⑲臨床心理士 成田淳子
臨床心理士。最近では、配置されている病院も増えてきたように思う。主にカウンセリングなどを通じて、患者の心のケアをサポートする。ムンテラ(医師による病状説明)に同席し、受け止めがたい現実を受容する手助けをすることもある。
⑳鶴田
先輩薬剤師。産科病棟を担当。産休に入るにあたり、みどりに業務の引継ぎをした。
「『産科で薬剤師にできることは少ない』と思う人には引き継ぎたくなかった」という彼女の言葉は、様々な意味合いを含んでいる。
傷病ではないお産について、薬剤師が直接に関わる場面はそう多くない。出産・分娩に使用する薬は決まっており、患者層も若いので併用薬もほとんど心配がない。
ここで問題になるのは、頭痛や吐き気などの日常的な体調不良に対し、「薬を飲んで良いのかどうか」ということに集約される。
「治療」ではなく「患者のケア」としての薬剤師の仕事が求められる場であり、みどりにとってはあらたな試練の場になるのかも知れない。
㉑岩澤ナース
産科病棟の師長。鶴田→みどり 引継ぎにあたり、登場した。
「名前をよく間違えるけど、凹まないでね」という、先輩・鶴田のアドバイスは、かなりリアルだ。
今なお、病棟は看護師のテリトリーであり、薬剤師が居場所を確保するのはそれなりに苦労がある。「名前を覚えない」というのは「覚えるに値しない、仲間として認めていない」という意思表示に外ならない。何度顔を合わせても「薬剤師さん」としか呼ばないスタッフもいる(ナースに限らない)。
産科病棟は赴任したばかりなので、これからどのようなドラマが展開されるか、楽しみである。
㉒道場ドクター
産婦人科ドクター。
かつて瀬野が物議を醸したHELPP症候群の患者の件で、担当医だった。当時は研修医で、オーベン(指導医)である林ドクターを呼ぶよう瀬野に叱咤された。
林ドクターは病院を去ったが、彼が唯一の産婦人科医として萬津総合病院に残ったようだ。萬津は産科医が不足のようである。
㉓六谷ドクター
循環器内科のドクター。みどりの処方提案に対し、前向きな姿勢を見せる。