苦痛無しに愛情はありえない。

ナインインチネイルズの曲に「毎日が全く同じ」という(タイトルは勝手に私が和訳した)ものがある。『ウィズティース』に入っている曲だ。

いかにもトレントレズナーが書きそうな、自分の苦しみを大袈裟にかつ正直に書いているのだ。「苦しみ無しに愛情はありえない」ということを歌っている。2005年のアメリカで、日本にはまだYouTubeもなく、ブログ文化だった。SNSが勃興する直前の曲だった。

今も昔も、普通に働いて納税している人にとって、毎日は同じことの繰り返しだ。毎朝起きて、バスか電車に乗り、仕事をして帰る。特別珍しくもない。20世紀が始まるか始まらないかの頃から特別に変わっていない。だけどNINはこれをポップに歌った。ただ、特に変わったことを歌った訳ではないから、特にヒットはしていなかった。

私は、十代の後半にうつ病を患い、20代の始めに辛い思いをした。十代の前半まではそんなに悪い日々は送っていなかったので、思春期の不安焦燥というありふれたものが原因なんだろう。以後、なんとか日常をやり過ごして今日に至る。

トレントレズナーは考え、悩む人だから、普通の人(まさしく私のこと)がどうでもいいと思うことでも、考え過ぎるほど考えるんだろう。私にもそういう時期があったけど、私は単純なのか頭が悪いのか、たいして考えることをしないらしい。トレントはやっぱり考え悩むことをしないと死んでしまうんだろう。そうでなければ現在までNINを続けられるはずがない(ナインインチネイルズを辞めたという話は聞かない)。

私もたまに悩み考えることがあるが、こうしてnoteを書いていると、自分の悩みを文に書けて自己満足感を得られるのか、それとも書いてしまえば忘れられる程度の悩みしか持てないのか、どちらにせよたいして悩まないのだ。

ナインインチネイルズで1番のアルバムは90年代の『ダウンワードスパイラル』ということになるのだろうか。トレントが根を詰めて作った(であろう)苦悩に満ちた作品である。苦悩のドン底を味わったトレントにとってはあれでもポップ性に満ちた作品ということになるんだろう。私は頭が悪いうえにたいして悩まないので、流行のポップスを聴いていれば満足だが、トレントが90年代に作った絶望と苦悩の作品も、しっかり聴いて、彼の悩み考えに共感することも大切だと思っている。皆さんも是非聴いてください。

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