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好きなもの(シロクマ文芸部)

「舞うイチゴ」
『美樹、何それ?』
「お母さん、私、熱下がった気がする」

『ホントだ、でも、もう少し寝てるのよ』
「うん、あのさ私ね、熱が出た時ね、いつも同じ夢を見るの」
『どんな夢?』
「大きなイチゴが舞うの。踊ってくれるの。素敵よ」
『イチゴ?美樹が一番好きなフルーツよね』
「うん、お母さんは熱が出た時、どんな夢見るの?」
『そういえば、黄薔薇の夢を見るかも』
「お母さんの一番好きな花だね。ねえ、お父さんは熱が出た時、どんな夢を見るのかしらね。いつもは不愛想なのに、たまに舶来のウヰスキーが届くと、笑ってるよね」
『そうねえ、どうなのかしら』



その日の夜、お父さんは熱が出ました。美樹の風邪が移ったようです。

晩御飯も食べないでお父さんは早々と寝てしまったのです。心配した二人はお父さんの様子をそっと見に行ってみました。
美樹はお父さんのオデコに手を静かに当ててみたのです。確かに熱があるようでした。
お父さんは気配で目を覚ましました。
『あなた、大丈夫ですか?』
お母さんが心配顔で尋ねます。
お父さんは目をパチパチさせて、二人に言いました。
「あれ?お前たちと今、いちご狩りをしていたよな?」



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