初夏の風(シロクマ文芸部)
初夏を聴く。
初夏の風が運ぶ匂いの中で呼吸をするように聴こう。
苦手な夏がやって来る。
夏という漢字がクネクネと挑発するように腰を振っているのが見える気がした。
だが、私は夏の始まる匂いを感じるのは好きだ。それは風が運ぶ僅かな香り。夏の幕開けに、ほんの一瞬だけ私の中と外に吹き抜けてゆく。
それはまた、リズムのような、メロディのような、内緒話のような。耳はしっかり受け止めるが、その音の意味するものを私はいまだに理解できない。
初夏を臭覚と聴覚、そして肌で感じるこの一瞬は宝物に等しいのかもしれないのに。
鳥達は、この初夏の声とも言える音を聴いているはずだ。
さえずっている時、飛んでいる時、私以上に敏感に聞き取っているはずだ。
もしかしたら、鳥達は風とおしゃべりをしている時があるのかもしれない。それが彼らの能力ならば羨ましい。
そんな事を思いながら、彼に会いに行く。
初夏を感じながら、愛しい彼に会いに行く。
初夏の風は転がるように通り過ぎて行く。
何だか今年は夏を楽しめるような気がする。
空を見上げて、もう一度耳をそばだててみた。