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透明な手紙の香り(シロクマ文芸部)

透明な手紙の香り。
透明なので、ほとんどの人が気づかない手紙。
それは海の青と空の青が紡ぐ香りをまとった手紙。
そんな話、誰が信じるものですか。

そんな私に手紙が届く。
誰にも見えない、私にも見えないけれど確かに私は受け取った。
存在さえ知らなかった胸の中のポストに届いたその手紙。
ポパンと私のポストは誇り高い音を響かせた。
差出人が無い手紙。青の気配をまとった透明な手紙の香りは、青のイメージを広げていく。

透明な手紙の香りとは一体何なのか。
海と空が接するところ、そこに立てばわかるはず。何かがそっとささやいた。



海は海で、空は空で、青色の拡散に余念がない。
空の青と海の青が混じり合う。そこから産まれる透明な手紙の香り。
私はそれを目撃するの。五感を研ぎ澄ませてじっと待つの。海と空の間で。

透明な手紙はまさに今、私の手を離れていく。
その時初めて垣間見えた、その文字。
見たことのない青い文字の羅列。
やがて文字は消えてゆく。どんなことが書かれていたのだろう。

残されたのは透明な手紙の香りと私。
その香りの中で私が知ったこと。
ここが私の始まった場所。ここが私の終わる場所。

ああ、香りが薄まっていく。
それに合わせるように、私自身も透明になっていった。
海と空の隙間の中に溶け込んでいくようだ。





#シロクマ文芸部
#透明な手紙の香り