内なる声……。

 お互いの都合がつかず、なかなか会えなかった知人と会うことになった。その約束をしたのは一ヶ月前。
 その日が近づき、再確認のメールを送ろうかと思った。が、やめた。「明日は(或いは、本日は)楽しみにしています」ただそう打てばいいだけだったのに。
 当日、待ち合わせの時刻から5分過ぎて、メールが届いた。「1時間遅れます。お約束の日時を勘違いしていました。今、向かっている所です。」そんな内容だった。勿論、謝罪の言葉もあった。うわーっ、と思った。それは彼女に対してではなく、自分に対して。あ~ぁ、やっぱり再確認のメール、しておけばよかった。後悔がグサグサ来た。まさか忘れてないよね、ふと湧いた一抹の不安が見事、現実になった。
 幸い、待ち合わせたのは、他にもいろいろなお店の立ち並ぶ場所だったので、彼女の到着までウインドウショッピングと、洒落込んだ。それはそれで興味深く、楽しかった。
 服に、小物に目を向けながらも、あれこれ思い巡らした。
 「ふと湧いた一抹の不安」は、内なる声だった。「内なる声に従う」と書いたばかりなのに、そうしなかった。そして実際に、こんなことが起こるとは……。

 彼女との再会は楽しかった。時が経つのも忘れ、とめどなく、とりとめもなくお喋りした。傾聴について学び続けている人なので、ますます話が合う、出来る、そんな安心感を覚えながら。
 あっという間に時は過ぎ、名残惜しみつつ、お開きとした。
 心地良く過ごした時を反芻しつつ、彼女が当日、思い出してくれて良かったと、感謝した。同時に、内なる声を無視した我が身を反省した。

 悪しき習慣を手放すのは、難しいものだ。内なる声に自動的に蓋をしてしまう自分であるのが、よーく分かった。そんな自分にあいそをつかす、のではなく、そうしなければ生きのびられなかった自分、そうすることで生きのびてくれた自分を又、心から労り、労いたい。

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