バレエが好き

 クラシックバレエが好きだ(コンテンポラリーは微妙)。観るだけだが。
 人間の身体能力、関節の可動域、柔軟性等々、その限界に挑み、尚且つ芸術性を失わず。その美しさ、そこに秘められている筋肉の、さまざまな力に圧倒され、感動する。フィギュアスケートや新体操等も、同じかも知れないと思うし、それらも好きだ。

 筋肉の衰えは、練習を一日でも休めば自分にわかり、三日も休んだら他人(ヒト)にわかってしまう、とは確か、高名なバレリーナの言葉だったように記憶している。そう言えば? 筋肉は嘘をつかない、と誰かが言っていたっけ。

 亡くなった夫に初めて出会った時、もしかしてバレエをやっていた? と思った。身体つきがそうだったのだ。はたして大当たり! だった。ただ、それが正業にはならずに終わってしまったようだったが。だからむしろ、二人でバレエ鑑賞をしたことは無かった。彼にとっては、苦い思い出のようだったから。

 彼はもともと、身体を動かすのが大好きな人だった。それに影響されて、私もそれまでよりは身体を動かすようになった。その楽しさも感じられるようになった気がする。
 そんな彼が、末期がん患者となり、最後は一日単位でどんどん弱って行った。昨日出来ていたことが今日は出来なくなっている。そんな状態の自分をどう思っていたのか、どんな気持ちだったのか。私はそれを聞くこともなく「その時」を迎えてしまった。気分はどう? そんな言葉すらかけられなかった。そう、あの最期までの日々、全くもって、なす術も、かける言葉も無く、確実に死に近づいている彼の待つ病室に “私が” 帰って行ったのだった。お互いがただそこに在る、そんな二人だった。

 今年は、ローザンヌ国際バレエコンクール50周年、の年だそうだ。本選がTV放映される。彼が生きていたら観るだろうか……。


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