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名プロ探訪:ファデーエフの韃靼人の踊り

アレクサンドル・ファデーエフ。
1985年の世界チャンピオンで、4度のユーロチャンピオンです。
自分が物心ついてフィギュアスケートを見始めたのが、カルガリー五輪の頃。当時伊藤みどりの存在もあり、幼いながらに結構記憶に残っているものです。当のファデーエフもNHK杯で来日することもあり、もちろん存在は知っていました。今回改めて見返すまでは、代表作の「禿山の一夜」で、白い衣装でリンクをスピーディーに駆け抜けていた姿や、オーサー、ボイタノと共に常に優勝候補の一角だったこと、でもたしか勝負弱いシーンも多かった、などそんな印象でした。

そして、昔の演技を見返していて、ひょんなことからファデーエフのカルガリー五輪のSPを見ました。
正直ぶったまげました。
まず最初の印象として、共産圏ぽい(語彙力・・)国家発揚臭のする硬質な少々謎の音楽が自分の癖に刺さった、というのも大きいですが、ファデーエフのとにかく絶え間なく動き回る姿が衝撃でした。しかも野太さのある振り付けがめちゃくちゃかっこいい・・!

wikiに彼のプログラム一覧がなく、shazamに聞かせても拾ってもらえず、なかなか音楽の情報に辿り着けなかったのですが、アサフィエフというプロコフィエフやハチャトリアンなどと同時代に活躍したソ連・ロシアの作曲家の、「バフチサライの泉」より”韃靼人の踊り”であることがわかりました。
共産圏的な匂いのする音楽、野太さのある振り付けなどの印象は、あながち外れてはなかったかもしれません。

元は1934年作曲のバレエ作品なので、youtubeを探したところ、今でもマリインスキー劇場のレパートリーのようです。
この踊りのシーンを超簡単に要約すると・・・
タタール王のギレイはポーランドの貴族の娘マリアを連れ去り、自らの宮殿に住まわせる。元々のギレイの寵姫ザレマは嫉妬してマリアを刺殺。ザレマは処刑され、哀しみに暮れるギレイを韃靼人の兵士達が慰めるために踊るシーン。この燃えたぎるような鼓舞する踊りによって、ギレイは一瞬息を吹き返すが、結局彼の憂鬱は晴れることなくストーリーは終わります。

この映像を見る限り、ファデーエフのプログラムは、バレエ作品の振り付けがベースになっているのが明らかですね!
東方的な香りのする手の表情や、ステップに組み込まれた土着的なジャンプ、騎馬族による鞭をしならせるような表現や、拳をグーにして突き上げる粗野な風合いのアクションなど・・
こういう民族的な踊りの要素が入った作品が好きな身としてはたまらないプログラムです。

衣装も素敵ですよね。検索する限りは、解像度の高い写真は残っていなくて、このおそらく作り込まれた美しい衣装の詳細を確認できないのが残念です。
五輪の優勝候補でしたから、プログラムや衣装はおそらく当時のソ連のクリエイティブが集結したのだと思います。

それにしても、今の選手もびっくりな、ファデーエフのつなぎモリモリのプログラム。天才的なスケーティング技術と運動能力を見せつけるにはピッタリの音楽を持ってきたなと思います。
ただ、カルガリー五輪はコンパルソリーは1位も、このSPで3Aを失敗(すぐに2Lo付けてるのもすごいですが)、フリーもミスが出て、結局総合4位でした。

ちなみに、カルガリー五輪で、先輩のファデーエフを抜かして銅メダルに輝いたペトレンコのSPも、同じアサフィエフの「パリの炎」という曲で、こちらのプログラムも最高に素晴らしいです。


ファデーエフに興味を持った方は、ぜひこちらもどうぞ。

コサックダンスを表現した、1987ワールドのSP。

おそらくキャリア一番の出来?カルガリー五輪翌年のユーロで、6.0を4つ出した「禿山の一夜」。


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