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名プロ探訪:ブラウニング「Hindu War God」

フィギュアスケートの歴史における生粋のエンターテイナーだったカート・ブラウニング。数あるチャレンジングなプログラムの中でも、困惑してしまうぐらいの謎めいたコンセプチュアルなプログラムが「Hindu War God」。ヒンドゥー教の軍神をモチーフに、世界の攪拌(天地創造)の様子を描く。

なぜこのようなテーマが選ばれたかのかは定かでないが、壮大なコンセプトを表現するのに使われた楽曲は3曲。
・ミュージカル「KISMET」より"Zubbediya Samari's Dance"
・Phil Collins "Find A Way To My Heart"
・映画「アマデウス」より”18世紀初期のジプシー音楽”

プログラム前半に使われるキスメットの音楽は、ボロディンの「ダッタン人の踊り」のモチーフを取り入れた重厚で凶暴な雰囲気のダンス音楽。
中盤に使われるフィル・コリンズは "Find A Way To My Heart" という曲のイントロ部分。振付家のブライアン・パワーが、世界の攪拌(天地創造)を表現できる広大で原始的な音楽を探していた時に、カートが自宅でコリンズのアルバムを聴いていて、これだ!ということになったそう。このコリンズの音楽に乗って、プログラムのハイライトである6つの顔と12本の腕を持った軍神の姿を表現する振付(決めポーズ)が、むちゃくちゃカッコいい。
そして、プログラムを締めるのは、なぜか映画「アマデウス」に使われている作曲者不詳のジプシー音楽。急に陽の雰囲気になり違和感ありありなのだが、そのギャップがこのプログラムの最高のスパイスになっているとも言える。「アマデウス」のサントラの中で聴くと優雅な宮廷音楽と聞こえ、カートのプログラムの中で聴くと、イケイケなオリエンタル調の音楽に聞こえてくるから不思議だ。

衣装が五輪とワールドで違うが、五輪の方がよりゴージャスで、孔雀に乗っていた軍神の表現だろうか。


ワールドの衣装は、演技途中に襟が取れてきてしまい、本人が氷上に投げ捨てるハプニングも。これは何か減点など取られているのだろうか。またこの時単独ジャンプの3Lzが2回転になってしまうのだが、技術点は5.4〜5.9までばらけた。何人かのジャッジは2回転になったのを見逃してしまったらしい・・・

そもそものプログラムのコンセプトからして謎めいているが、それを表現するための音楽が、どうやったら思いつくの?というジャンルも曲調もバラバラの3曲の組み合わせ。そしてそんな混沌のプログラムを最高にカッコよくモノにしてしまうカート・ブラウニングのセンス。クワンの「サロメ」でも思ったが、やはりぶっ飛んだ傑作は非常識から生まれることを改めて実感した。


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