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忘れられない演技:ミシェル・クワン「Song for you」

トリノ五輪の棄権から2ヶ月後。マーシャルズのショーにその姿はありました。彼女は明確な引退宣言をしなかったため、いつ競技人生を終わらせたのか本人の中での認識はわかりませんが、おそらくこのショーでの演技が、事実上のさよならの機会だったのではないかと思います。そしてそれは、最終地点として五輪の金メダルを目指し続けてきた道のりに終止符を打つことでもありました。

トリノ五輪の棄権の会見では、五輪の金メダルなしでキャリアを終えることについて聞かれ、次のように答えています。
「オリンピックで優勝することは常に夢であり、国を代表することは常に名誉なことです。しかし、金メダルではなく、その精神が重要であり、スポーツそのものであることを学びました。後悔はしていません。私は一生懸命に努力しました。そして、もし私が金メダルを取れなくても、それはそれでいいのです。私は素晴らしいキャリアを積んできました。とてもラッキーでした。これがスポーツであり、美しいものです」。

マーシャルズで披露したのは、ナタリー・コールの「Song for you」。私が知る限り、このプログラムを演じたのはこの1回だけのように思います。エキシビションのプログラムとして用意していたのかもしれませんが、シーズン中怪我で一度も競技会に参加しませんでしたから、見かけることはありませんでした。

登場のシーンから、すでに目に手を当てて涙をこらえるような仕草が見られます。それもスタートポジションに着くと、この笑顔。彼女らしいです。

歌詞が印象的です。
”人生の中でいろんな場所に行ってきた
たくさんの歌を歌い、悪い韻も踏んできた
1万人の観客が見守る中、舞台で自分の人生を演じてきた
でも今は二人きり、あなたのためにこの歌を歌います”

”もし私の言葉がうまくまとまらなくても、
メロディーを聴いてください
私の愛はどこかに隠れています”

”Singing my song, I'm singing my song for you”
”私の歌を歌う、私はあなたのために私の歌を歌う”

この歌詞をそのまま表現するような、とても正直にがむしゃらに、自分をさらけだすような演技。

彼女には、作り込まれた芸術作品のようなプログラムもたくさんあり、それこそが彼女の偉大な功績でもあります。しかし、いつも観客の心を打ち、数々の熱狂を生み出してきたのは、その作品の質だけが理由なのではなく、彼女の根本にあるスケートや演じることが本当に好きだというシンプルな気持ち。それを素直に表現できることも、彼女の大きな魅力であったと思います。

過去にこのような姿を見せたのが、ソルトレイク五輪のエキシビションでした。Eva Cassidyの「Fields of Gold」に乗せて、スケートにシンプルにストレートに感情を映し出すような演技で、最後は大粒の涙を見せました。

五輪で金メダルを獲れなかった時の演技、そしてこの「Song for you」は五輪の金メダルという夢をついに果たさずに舞台を降りる時の演技。
あれだけの栄光のキャリアを持ちながら、一方で敗者としての姿も美しかったのがクワンでした。

正直なところ、アスリートとして絞れている時と比べれば、全体的に重たさを感じる演技であることは否めません。
振付も、おそらくこのためにオリジナルで作ったというよりは、過去の演技の繋ぎ合わせではないかと思われます(それが悪いことではなく、さよならの演技としては懐かしいプロの端々が垣間見られて、それも心を打つ要素になっています)。

歴史上最も洗練された芸術的なスケーターの一人であり、5回のワールドチャンピオンであることとはまた別に、スケートをこよなく愛し、それを躊躇なく観衆の前でさらけ出すように演じる、一人のスケーターの姿がありました。

演技後、感極まった表情を見せるクワン。
目指してきた結果は得られなくとも、そこを目指してきた精神こそがスポーツそのもので、それが美しい。
まさに自身の言葉を体現する、彼女の一つの旅を終わらせる演技。ぜひ多くの方に見ていただきたいです。

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